クラウドソーシングの真の活用!
アメリカ事例にみる、外部人材が叶えるイノベーション
1.はじめに
コロナ禍では日本でもフリーランスが急増したと言われています。
ランサーズの調査によると、2018年に1,151万人だったフリーランスが2021年には1,670万人になったとされています。
(*【ランサーズ】フリーランス実態調査 2021 https://speakerdeck.com/lancers_pr/huriransushi-tai-diao-cha-2021)
* 常時雇用されているが副業で収入を得ている方や法人経営者でも1人で運営している方を含む
その背景にはテレワークの広がりや特定の業界がコロナにより打撃を受けた等ありますが、その受け皿としてクラウドソーシング市場が広がっているという事もあります。
日本の労働人口のかなりの部分がフリーランス市場に流出しているということは、色々な才能に対して外からアプローチ可能だということでもあります。
日本ではまだまだBPOのような間接業務やIT系サービスの外注イメージが強いクラウドソーシングですが、今回は改めてその可能性について振り返ってみたいと思います。
2.クラウドソーシングによるイノベーションの可能性
日本でもクラウドソーシング市場が広がってきています(2015年:650億円→2020年:2,950億円、矢野経済研究所)。
日本のクラウドソーシング市場は日本語の壁もあり国内に閉ざされていますが、英語圏では世界中から才能が集まっており、はるかに大規模に広がっています。そして重要なことは、日本では単なる外注のイメージがあるクラウドソーシングですが、世界的にはかなり以前からイノベーションのために利用されているということです。
皆さんはクラウドソーシングはどういう企業や団体に使われていると思いますか?
例えば米国にはもともとイーライリリーという医薬品メーカーが2001年に社内ベンチャーとして作った「InnoCentive(イノセンティブ)」というクラウドソーシング・プラットフォームがあります。もともとは難病や食糧難などの課題解決を広く世間の科学的知見を使って解決しようというものでしたが、あまりに上手く解決できるということで2005年にスピンオフされより広く使われるようになりました。難解な研究テーマに報奨金をかけて、解決策を公募できるということで、今では38万人以上の課題解決者(ソルバーと呼ばれています)の登録があり、プレミアム・チャレンジと呼ばれる課題の解決率は85%以上と言われています。面白いのは、そのほとんどが数カ月以内に、また別の専門領域の方が解決しているということで、まさに自分の専門外の知見を使ったイノベーションが起こっているということです。
以下に代表的な成功事例を2つほど紹介しましょう。
NASA:太陽フレアの予測精度の向上
NASA(アメリカ航空宇宙局)はもともと太陽フレアの予測精度を高めようと多くの努力を払ってきました。巨大な太陽フレアが発生するとSPE(太陽高エネルギープロトンイベント)というものが発生し、宇宙飛行士や航空機搭乗者は通常時と比べて遙かに高い宇宙線の被ばく線量を受ける可能性があるからです。しかし、実際のところなかなか精度が高まらず、NASAはあまり期待をしていなかったものの、イノセンティブに研究テーマとして投げかけてみることになりました。
しかし結果は驚くべきことに、NASAの制度を超えるモデルがあっさりと実現してしまったのです。解決策を与えたのはブルース・クラギンという引退した無線技師の方だったのですが、彼は宇宙物理学の知識も経験もないにもかかわらず、SPEの発生8時間前に85%の確率で予測できる方法を開発しました。このときNASAはクラウドソーシングの威力を実感することになります。
DARPA:次期水陸両用戦闘車両の設計
次の事例は米国防省の国防高等研究計画局(DARPA)による海兵隊の次期水陸両用戦闘車両の設計です。DARPAは2012年10月に戦車開発コンテストとして「FANG(Fast, Adaptable, Next-Generation Ground Vehicle)チャレンジ」を始めています。
このチャレンジで賞金100万ドルを獲得したのは「Team Ground Systems」というエンジニア3人組で、このチャレンジのために急遽結成されたチームでした。防衛・軍事という秘匿性の高い分野においてもこのようなクラウドソーシングの試みがなされているというのが驚きではないでしょうか(もちろん、このチャレンジに成功したとしても実際の調達を決めるのは海兵隊ですので、実現するかどうかはこの時点で不明です)。
同様の試みは米国の行政でも利用されており、「Challenge.gov」というサイトでは現在解決策を募集している様々なテーマを見ることができます。クラウドソーシングで社会課題を解決することを実装している良い事例と言えるでしょう。
もちろんその他にも米国のUpWorkやオーストラリアのFreelancerといった総合的なプラットフォームがあったり、Kaggleというデータサイエンス専門のプラットフォームがあったりと、世界中から人材を集めています。日本にも有名なプラットフォームがいくつもありますが、クラウドソーシングも使い方によって強力なツールになることのイメージが湧いてくるのではないでしょうか。
3.プラットフォームが世界を変える
こうしたクラウドソーシングについて、やはりインターネットによるプラットフォームの登場が大きなきっかけとなっています。
もともと、世の中に沢山の人材がいるということは分かっていたわけですが、それまでは広くアイデアを募るということ自体にコストがかかってしまい、またその信頼性も分かりませんでした。その問題がインターネットによって解消され、いまや私たちはどこにどんな才能がいるのか、かなりの部分を見える化できています。
他のプラットフォームでもそうですが、例えば民泊のプラットフォームであるAirbnbによって世の中にある空き部屋が可視化され、Airbnbはあっという間に世界一の宿泊者向けプラットフォームになりました。その過程で、今まではホテルか旅館しか選択肢がなかった世界から、空き家や別荘、個人宅の空き部屋など多くの選択肢から選べることになり、旅行市場は明らかに豊かになっています。
プラットフォームは自分自身では資源(リソース)を抱えない一方で、世界に既に存在している資源をつなぎ、見える化します。それによって、非常にニッチなニーズにも対応できるだけの大量の供給を行うことで、今までは諦めていたような需要を掘り起こし、市場そのものを大きくすることができるのです。
これは人材マーケットでも同様です。世の中に特殊な専門性やアイデアを持っている人はたくさん存在するのです。私たちは今までその人々を発見するすべがなく、正社員の雇用と育成という枠内で人材を考えてきました。しかし今や、その気になれば世界中から才能を集めることができてしまいます。今の時代、人材も自前主義だけではなく、いかに外部資源を調達できるかが重要な競争力になっていくでしょう。
人的資本経営というテーマが大きな話題になっていますが、人を資本として考えるだけではなく、よりダイナミックに内外の人材の活用を考えていく必要がありそうです。皆さんの会社でも、いかにこうしたプラットフォームを活用するか、人材においても重要なテーマではないでしょうか。
4.おわりに
コロナ禍を経て、日本においても一気に副業の解禁やテレワークなどの流れが進みました。それに伴い、様々な「今まではタブーだったこと」への挑戦ができる雰囲気になっているのではないでしょうか。
クラウドソーシングというと、まず最初に「セキュリティ(守秘義務)の問題が・・・」という話になりますが、NASAや米国の軍事筋にも活用されているとなれば見え方が変わるかもしれません。これらの事例はすでに10年前の事例であり、世界はさらに進化しています。
今後プロフェッショナルな人材はよりフリーランス化が進んでいくと言われており、企業内に留まらない人材をいかに活用していくか、是非皆さんの会社でも検討してみてほしいと思います。