企業の発展段階における組織論 ~官僚化した組織に必要なこととは?
1.はじめに
組織のあり方に関する議論は多いものです。
例えば組織は時間がたつにつれ、また規模が大きくなるにつれ、保守的・官僚的になっていきます。「メールのCCが増えてきたら要注意!」という人もいますが、そういった企業の老化現象を示すものも沢山思いつくでしょう。
さて、しかしもともとの私たちの関心事は、どんな組織であれば会社は成長できるのかということです。成長すると組織は保守化していく、というのではなく、成長させるためにどんな組織にすべきなのか、を知りたいのではないでしょうか。
結論から言えば、企業がどういうタイミングでどういう組織的課題を持つかについて、大きな枠組みは全て分かっています。取るべきタイミングで取るべき組織にしないことが問題であり、前段階の成功体験を次の段階にまで持ち込むことが問題なのです。
今回は企業の発展段階における組織のあり方を検討します。このテーマは、上述の通り1978年のラリー・グレイナーの有名な研究があるのですが、今なお驚くほど示唆に富む内容であり、必ず皆さんの役に立つと言ってよいでしょう。
2.企業の5段階発展モデル ~あなたの会社は今どこ?
それでは早速具体的に企業の発展段階における典型的なあり方と、それをどう乗り越えていくのかを考えていきましょう。
(1)第1段階:創業期
この時期は創業者がフルスロットルで走り、市場開拓・新商品開発と創造性をいかんなく発揮していく時期です。社員の数も少ないのでコミュニケーションが頻繁に行われ、形式にもこだわる必要がありません。ハードながらにやりがいもあり、柔軟に顧客開拓もできるでしょう。
しかし企業が大きくなっていくと、創業者のリーダーシップだけでは運営が出来なくなっていきます。往々にして創業者は組織づくりやルール作りが苦手にもかかわらず他人に任せることを嫌うもの。ここに成長がストップしてしまう第一の危機が発生します。
ここでの処方箋は、典型的には銀行や大企業のOBを受け入れ、組織やルールを整備してもらうことでしょう。大きな組織の回し方を知っている人、その標準や運用方法を知っている人を連れてきて、そのノウハウを移植してもらうということです。「個人商店」から「組織」へと進化するのがこの段階です。
(2)第2段階:管理・トップダウンによる成長
優秀なマネージャーを採用することで、なんとか組織だってきた会社は再度成長軌道に乗ることになります。
今までは誰が誰の上司かも分からず、自分の職務も曖昧だったわけですが、このタイミングで組織と分掌がはっきりして専門性が出てきます。予算管理や月次の試算表が出せるレベルを想像しましょう。組織としては新しいマネージャー陣からトップダウンで指示命令が下りることになります。今まで創業者ががむしゃらにやってきたことを組織的にやるということですから、それほど権限構造が変わるわけではありません。
さて、この成長の限界は、マネージャーたちは管理はできるけれども現場を知らず、指示命令はしたいけれども下の意見は聞きたがらないところにあります。現場は「こうした方がいい」と思っているのに、上からは違う指示が下りてくる、逆に情報を上げようとすれば「全てオレを通せ」と言ってくるなど、組織が硬直化していくこともしばしばです。社長はといえば、情報が上がってこないために、現場で何が起こっているのか分かりません。
このタイミングで権限移譲が必要になります。意思決定の権限を現場におろすことで、対応の柔軟性を確保し、市場との乖離をなくしていきます。ただ、権限移譲といっても簡単ではありません。今まで指示命令で権力を維持していたマネージャー陣が変わることも難しければ、今まで意思決定したことがない現場の人間が「これからは自分で決めること」を受け入れるのも難しいものです。
(3)第3段階:分権による成長
権限移譲が無事に進み、各現場がイキイキと活力を復活させることが出来れば、会社は次の成長へと進むことができます。
組織としても事業部制になって、各事業部長が損益の責任を負う一方でボーナスの差も大きくなっていくでしょう。創業者への依存はどんどん小さくなり、個別に現場に介入することも減っていくはずです。
この権限移譲によって起きる問題は何かといえば、現場の個別最適化です。大阪支店は治外法権だ、とか北米支社は勝手にやりすぎる、という問題は皆さんの会社でも経験したことがあるでしょう。時にはコンプライアンスに抵触する事象も起きかねません。
ここでの処方箋は、一般に「本部」の設立となります。横串を通して調整する機能をもち、改めて全社戦略を進めていくことになります。局地戦で勝つだけではなく、資源配分を上手く行うことで全体の競争のなかでも競争優位に立っていけるはずです。
(4)第4段階:調整による成長
この段階になると、組織もかなり成熟してきます。お山の大将のようなマネージャーではなく、組織の一員としての役割を理解した子会社トップや支社長が登場し、全体を支えていきます。全社戦略によって資源の再配分も行われ、IRRなどの投資基準も採用されていきます。事業としてのポートフォリオが広がるにつれ、海外進出や新商品開発など、より企業としての可能性を広げていくことができるでしょう。
さて、本部制などの調整機能を備えた会社の次のネックは何でしょうか。
それが形式主義化・官僚主義化です。どんな制度も当初の目的は忘れ去られ、そのルールだけが形式的に受け継がれていくものです。「本部からは手間のかかる指示ばかり」「現場のことを何も考えていない」等という声は常に大きいもの。手続きには時間がかかり、意思決定は遅く、そして本部は肥大化していく、多くの日本企業の現状ができあがります。
ではこの危機を乗り越える処方箋は何か、グレイナーは「強い個人」だと言っています。必要に応じてタスクグループやチームが作られ、個人間での協働によってプロジェクト単位で問題が解決されていくことになるでしょう。本部にいた専門人材は現場に還元され、本部人脈と専門知識を現場で活用していきます。
3.発展モデルのキーポイントと今求められる人材とは
グレイナーの発展モデルのポイントは、以下の3点に集約されます。
- 自社が発展段階のどこにいるのかを知ること
- 今の課題を解決するための方法は既にあること
- その解決策が新しい課題を産むことを知ること
「ある時期に解決を求めることが、後になっては大きな問題になるという皮肉な現象を、会社は経験する」とグレイナーは言っています。一つの発展段階をクリアすれば、クリアしたことによって新しい課題が生まれてくるという事実を私たちは知るべきでしょう。
さて、成熟社会の今の日本では、この5段階目にある会社が多いと思います。グレイナーの発展段階モデルでは、トップダウンにせよボトムアップにせよ、創造性の主体がその力を失わないように組織構造を変えていかなくてはいけないということでした。創業者から組織へ、組織から現場へ、そして本部へと、中心が振り子のように揺れ動きながら企業はレベルアップしていきます。そして第5段階では、組織目的を理解し、自由に活動する「強い個人たちの協働」というキーワードが出てきます。組織はヒエラルキーではなく、より溶け合う形となり、個人の創造性と組織の資源が融合した、より柔軟性のある形に向かっていくでしょう。
そのような「強い個人」にはどのような要素が求められるでしょうか。
それは、今、会社に何が求められているのかを見抜く課題設定力、大きな解決策を描ける構想力、自由に組織を行き来する行動力、そして他人を巻き込んでいく魅力ではないでしょうか。「強い個人」といっても、以前のような指揮命令で周りを引っ張っていくというわけではなく、よりしなやかなリーダーシップが求められるように思います。
4.最後に
今回は企業の発展段階における組織のあり方について考えていきました。
個人の成長においても、係員と課長、また部長としてのあり方では違います。うまく断捨離して、新しい考え方を身に付けなければ活躍し続けることはできません。それは組織そのもののあり方でも同様で、発展段階という切り口で切ってみると、より解像度が上がっていくのではないでしょうか。
まずは自社のステージはどこかを確認し、上手い処方箋が見つかるかどうかを検討してみましょう。そして、組織の問題はどういう個人が求められるかと裏腹でもあります。自分自身が今の企業に適切な存在になっているかどうかも、是非合わせて検討してみましょう。
参考文献:ラリー・E・グレイナー「企業成長の”フシ”をどう乗り切るか」ハーバードビジネス1979年2月