そもそも組織って必要なの!? ~一人企業時代に考える組織論
1.はじめに ~アウトソーシングしてしまえば組織は不要か
今回はそもそも会社という組織は必要なのか?という根本問題について考えてみたいと思います。
テレワークが進み、自動化が進み、外注が進み、フリーランスが増える中、会社という枠に入って仕事をする意味ってどれだけあるんだろう?
大企業の非効率化が叫ばれ、かつ「安定している」ともいえない時代に入っており、それでも大企業で働く意味って何だろう?
多くの組織が制度疲労を起こして生産性が下がり、不祥事を起こす中、一度立ち止まって、そもそもなぜ私たちは組織を作るんだろう、今の時代にそれはどういう意味を持つのだろうということを考えてみるのも意味があるでしょう。
2.組織が弱くなり、個人が強くなる時代
まずは大きな外部環境のおさらいからです。
前回のコラムでも採り上げたように、最近の大企業では大きくなりすぎた本部の官僚化・保守化を乗り越えるために「強い個人の協働」が求められています。しかし「強い個人」達であれば、会社に属さなくても、個人で色々な会社のプロジェクトに参画しながら、案件ごとにチームを作って対応できるかもしれません。
また、最近は間接業務をサポートしてくれるSaaS系企業もたくさんあり、事実上間接業務に人が必要なくなってきています。クラウドワークスやランサーズといったクラウドソーシング市場もあり、また古典的にBPO(アウトソーシング)市場もありますから、そういったところを使えば自社に雇用を抱えることなく仕事を外注することもできるでしょう。
副業が当たり前の世界になればフリーランスの世界も広がり、弁護士やコンサルタントなどのプロフェッショナル・サービスを提供している人だけではなく、例えばWebサイトの構築やデジタルマーケティングなどに専門性を持つ人たちも個人でどんどん活躍できる時代が到来します。
要するに、同じ組織に属さなくてもお互い必要な時に協力できる体制さえあれば、一人でも、あるいは少人数でもやっていける時代になっているということです。逆に、大企業は意思決定のスピードが遅く、効率性が悪いということで、制度疲労を起こしてしまっているといえるかもしれません。
では、そもそも「組織」は何のためにあるのでしょうか。
3.組織の3要素とは ~今、改めて輝くバーナードの組織論
そもそも組織というものはそれほど人工的な存在ではなく、人間社会に生きていれば自然と発生するものです。人が村を守り、狩りをし、共同生活を行う中で協力することは自然でしょうし、より目的がはっきり具体的になっていけば、それは組織的な形態をとっていくことになるでしょう。
一方、組織が発達して大きくなってくると、あたかもその構成員である「人」が歯車のような存在になってきて、組織の方が大きな存在感を持つようになります。組織に属することに意味があり、それが構成員の存在価値まで決めるようになってしまうと、どうも組織から抜け出しにくくなっていくものです(大企業に勤めたい、辞められない、といった現象や学歴社会もその表れかもしれません)。組織で働く人は機械の一部であったり、替えの利く歯車にすぎないという人間観、今までの組織のイメージにはどうしてもそういった印象が付きまとうのではないでしょうか。
- 仕事はつらいことを行うから給料がもらえているんだ
- 社員は労働力を提供して、その対価として給料をもらっているんだ
さて、約100年前、1930年代という昔に、そういう組織観に疑問を投げかけた人物がいます。それは組織論で有名なチェスター・バーナード(1886年ー1961年)ですが、経営学部などの組織論ではまず初めに彼の組織の概念を学ぶほど古典的存在です。チェスター・バーナードは米国ニュージャージー・ベル電話会社の社長を長らく務めた経営者ですが、実業家でありながら『経営者の役割』という本で一躍「経営学者」としての名声を獲得しました。
そのバーナードは、組織の歯車としての人間ではなく、自ら考え行動するのが人間だという信念を持っていました。従って、彼は組織を定義するとき、「人や経営資源の集まり」といったような物理的な側面ではなく、「人間が意識的に協働するためのシステム」といった機能面に焦点を当てました。少しわかりにくいですが、組織の本質は人が協力して何かを成し遂げるところにあり、もっというと成し遂げようとする意思が大事になるということを言っています。
そんな彼が組織には3つの要素があると言っています。
- 人々が共通の目的を目指すこと(common purpose)
- 人々がそれに貢献しようという意欲があること(willingness to serve)
- 人々が相互に意思疎通・コミュニケーションすること(communication)
ここに新鮮な驚きを感じるのですが、「パーパス」や「貢献意思・フォロワーシップ」、そして「コミュニケーション」など、今の企業に求められているという主要なものは、すでにここに集約されているということです。
実はこのバーナードの組織の定義は曖昧過ぎると批判されてきました。例えば道にある石をどけようと3人が協力すれば、それでもう「組織」になってしまう、それは実情と違うのではないか、というもの、また共通目的を持っていなかったり(給料が欲しいだけ)お互いにコミュニケーションを取っていない「組織」もいくらでもある、ということなどで、実際の組織を説明しないというものでした。
ただ、今の時代に改めてこの「組織の3要素」を眺めてみると、組織を組織たらしめるのに必要な核心的要素として、心が震えるのではないかと思います。外注が出来るから組織はいらない、自動化が進むから組織はいらない、そういう考え方は、結局人間を歯車の一つとしてしかみていないのかもしれません。一人で多くの事業ができてしまう今の時代、なぜ私たちは組織に入るのか。それは共通の目的があり、相互にコミュニケーションをとっていくことでその目的達成に貢献したいと願うということだ、そういうバーナードの指摘は、今の時代だからこそ輝いて見えるのではないでしょうか。
4.人間中心主義はドラッカーに ~組織の有効性
ところでバーナードの主張は多くの経営学者に影響を与え、日本でも有名なピーター・ドラッカーにも影響を与えました。バーナードの組織の定義は、組織の本質を突いてはいますが、組織を作ることの効果については触れていません。ドラッカーは一歩進めて、組織を作ることの意味について言及しています。
人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす。
手続きや雑事を必要とする。
人とは、費用であり、脅威である。
しかし人は、これらのことゆえに雇われるのではない。
人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。
組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。
(ピーター・F・ドラッカー『創造する経営者』、強調筆者)
ここでは、組織が存在する目的は、強みを最大化し弱みを無効化するためである、と言われています。分業による生産性の向上といってしまえばそれまでですが、要するに人は替えが利く機械の歯車ではないということです。個人の強みと弱みはそれぞれ異なり、その強みを最大限に活かしていくことこそ組織の目的であり、またマネジメントの役割なのだということです。人間中心に組織を考えるこの考え方は、今より重要になっていると言えるでしょう。皆さんの組織は個々人の強みにきちんとフォーカスを当てているでしょうか。
5.最後に ~今の時代の組織論
今は新しい時代に向けての過渡期なのだと感じます。
「パーパス」や「ティール組織」「ホラクラシー組織」など、新しい言葉が飛び交っていますが、組織よりも個人に価値の源泉があるという傾向がどんどん強まっており、いかにそれを引き出すかが多くの経営課題になっています。
では、私たちは個人だけで十分なのか、といえばやはりそうではなく、大きなことを達成するには組織が必要になるはずです。
それは、共通の目的をもって、それに貢献しようとする仲間がおり、そしてコミュニケーションの中でお互いの強みを最大化し、弱みを打ち消し合って1+1をより大きくしていくからでしょう。
「More is different.(多は異なり)」という言葉がありますが*、組織というものは単なる部分の集合ではありません。人間は細胞の集まりですが、同時に細胞だけでは成し遂げられないことができるものです。
そういった観点から組織を見つめ直した時、現代のテクノロジーを使いながらもっと生産的で創造的な組織を私たちは創り出せるのではないでしょうか。
* プリンストン大学のフィリップ・アンダーソン教授の論文「More is Different」(Science, 1972年8月号 Volume177)より。