コラム

エンゲージメントが低いとどうなる? 低下の原因と高めるための施策

近年、ビジネスにおいて従業員の「エンゲージメント」が重要であるという認識が広まっています。エンゲージメントとは、従業員が自分の所属企業と仕事に対して熱意を持ち、自発的に貢献しようとする意欲のある状態を指す言葉です。

エンゲージメントの高い従業員は、自社への帰属意識やモチベーションが高く、企業の業績向上につながりやすいとされており、エンゲージメントという概念が注目されているのです。

そこで今回は、エンゲージメントが低い企業の傾向や、低下したエンゲージメントを向上させるための方法について解説していきましょう。

従業員のエンゲージメントが低い企業はどうなる?

まずは、従業員のエンゲージメントが低い企業はどうなってしまうのかを解説していきましょう。

企業の業績悪化につながる

前述したとおり、エンゲージメントは、従業員が仕事に対して熱意を持ち、所属企業に自発的に貢献しようとする状態を指す言葉です。従業員のエンゲージメントが低いということは仕事に対する思い入れや貢献意欲が低く、モチベーションが低い状況といえるでしょう。

従業員が低いモチベーションのまま、やりがいを感じていない状況で仕事に取り組んでも、成果を出すことは難しく、企業の業績は伸び悩みがちになります。

商品・サービスの品質低下につながる

エンゲージメントが低いと報告・連絡・相談を怠る従業員が増え、従業員同士のコミュニケーションが不足します。コミュニケーションが不足すると従業員は「与えられている仕事を淡々とこなす」という状況になり、柔軟な働き方ができません。また、トラブルが発生しても状況把握や解決に時間がかかります。結果的に顧客志向ではなく自分志向・社内志向になってしまうため、良い商品やサービスの提供が難しくなり、品質低下を招きます。

離職率が高くなる

従業員のエンゲージメントが低い企業は、離職率が高くなる傾向にあります。企業に対する貢献意欲が低く、従業員同士のコミュニケーションが不足している職場は働きやすいとはいえません。必然的に従業員が「働き続けたい」という気持ちが低くなります。 エンゲージメントは従業員の就労意欲に直結しており、仮に労働条件が良い職場でも、エンゲージメントの低さを理由に離職するケースは珍しくありません。

日本は世界と比べてエンゲージメントが低い?

日本企業の従業員は世界的に見てもエンゲージメントが低いとされています。その理由を紹介していきましょう。

アメリカの調査会社ギャラップ社が行った2024年度版の調査によると、日本の従業員エンゲージメント指数は6%と極めて低い数値を示しています。これは調査対象となった国の中でエジプトや香港などと共に同率最下位です。従業員エンゲージメントの世界平均は23%で、日本はその1/4程度に過ぎません。

世界の平均と比較して日本のエンゲージメントが低い主な原因として、仕事に対する満足度が低いことが挙げられます。また、日本では労働者の5人に2人がストレスを感じており、41%が仕事の前日に大きなストレスを経験したと回答しています。 日本では、長時間労働やストレスが多いことなどが、幸福度を低下させている要因として指摘されています。近年では、政府による働き方改革などが進められていますが、依然として課題は多いといえるでしょう。

エンゲージメントを低下させる主な原因

エンゲージメントを低下させる主な要因について解説していきましょう。

日本企業においてエンゲージメントが低い理由は、主に以下の5点です。

人事評価への不満

エンゲージメントが低くなる大きな理由が「人事評価への不満」です。所属しているコミュニティや人間関係において評価されないと、満足度を感じられず、モチベーションが低下します。職場においては適正に評価されていないと感じると、エンゲージメントが低下しやすくなります。
特に成果を出している従業員や仕事を頑張っている従業員ほど適正な評価がないとエンゲージメントが低下します。

近年、日本企業でも年功序列から成果主義へのシフトが進んでいますが、若手は成果主義で評価される一方で、上司は年功序列のままの組織体制は珍しくありません。このような企業の場合は、若手が「自分は頑張っているのに、仕事をしていない上司のほうが高く評価されている」と感じて不満を抱く場合があります。

時間対応型の賃金制度の採用

日本企業のエンゲージメントが低い理由のひとつに、時間対応型の賃金制度の存在が挙げられます。時間対応型とは「働いた時間分の賃金を支払う」働き方です。これまではアルバイトやパートが時間対応型の働き方の中心でしたが、近年、残業代は通常の賃金よりも時間あたりの金額が高いことから、残業代を目当てに長時間勤務をするケースが珍しくありません。

日本の残業制度によって長時間働くほど賃金が高くなる一方、就業時間内で仕事を終わらせても評価はされません。むしろ「効率的な労働は金銭的にはデメリットになってしまう」という状況になっています。

これでは「効率的に仕事を多くこなそう」と考える従業員が現れにくくなるだけでなく、就業時間内は適当に働き、就業時間が終わってから一気に仕事に取り掛かる。という志向の従業員が現れるのは不思議ではありません。
このような状況では、特に「子育てや介護のために効率的に仕事をして、できるだけ早く帰りたい」と考える従業員とそうでない従業員の間で考え方の溝ができます。必然的に職場内での意見の相違が対立に繋がり、エンゲージメントが低下してしまうのです。

過剰な法令順守

日本企業の特徴の一つに過剰な法令遵守の文化があり、エンゲージメントを低下される原因になっています。これは「オーバーコンプライアンス」とも呼ばれており、「必要以上に規則を厳しくすること」を指しています。

社内での問題はもちろん、社会的に大きな問題が発生する度にルールが作られ、ルールを守ることにマネジメント層が意識を向けてしまう現象を意味します。
例えば、業務改善の提案のために何十枚もの書類を書かされる。残業の度に作成に手間のかかる申請書が必要など、「一見すると正しいが、現場の負担が増える業務」がこれに該当するでしょう。

過剰な規制を続けることでチャレンジすること自体が手間やリスクと捉えられやすくなり、結果として挑戦しにくい環境になるでしょう。このような職場ではやりがいを感じられず、必然的にエンゲージメントが低下します。

複雑な組織や仕事内容

「挑戦しにくい風土」や「失敗を恐れる雰囲気」は、特に大手企業にみられる傾向がありますが、組織の規模が大きくなると指揮命令系統が複雑化したり、縦割り化したりして仕事が細分化されます。その結果、「これは私の担当ではない」「言われたことだけやる」というセクショナリズムが組織内に蔓延していきます。

セクショナリズムが蔓延すると、自分や自分の組織の利益を最優先に考え、他の部署との連携を避けるようになります。こうなると、顧客志向ではなくなってしまい、より良いサービスや商品を生み出すことはできません。また、従業員がそれぞれ持っている強みや能力が活かしにくくなり、組織のエンゲージメントが低くなります。

年功序列や終身雇用

日本では「職能型人事制度」と呼ばれる年功序列制度や終身雇用制度を採用している企業が多く存在します。「職能型人事制度」とは、現在のポジションや仕事内容ではなく、過去の実績の積み重ねを「職能」として評価する制度です。つまり、在籍経験が長い従業員ほど評価されます。

近年は「職務型(ジョブ型)人事制度」と呼ばれる、現在のポジションによって評価を変える人事制度にシフトしつつある企業でも、上層部は未だに年功序列というケースは珍しくありません。
またゼネラリストへの評価が高く、専門性の高い仕事に対する評価が相対的に低い傾向にあります。その結果、専門性の高い仕事に従事する従業員のプロ意識が希薄になり、エンゲージメントが低下しやすくなります。

このような職場では成果と評価が正しく行われず、昇進・昇給やボーナスといった報酬面でのミスマッチが発生します。評価が正当でないと従業員満足度は低下しやすいことから、年功序列や終身雇用、専門職を軽視する風潮のある職場はエンゲージメントが低いといえるでしょう。

エンゲージメントの向上で得られる主な効果

エンゲージメントの向上で得られる効果はどのようなものがあるかをご紹介していきましょう。

従業員のモチベーションの向上

エンゲージメントの向上による最も大きな効果は、従業員のモチベーションの向上です。
モチベーションが高いと、従業員は積極的に業務に取り組むようになり、生産性が向上します。従業員が主体的に業務と向き合い、業績が向上すると「企業に貢献している」という実感を得やすくなり、エンゲージメントがさらに高くなるという好循環が期待できます。

組織の活性化

エンゲージメントが向上すると、より良い仕事環境を作るために周囲とコミュニケーションを積極的に取るようになり、チームワークが強化されます。チームワークが強化されると目的意識が強くなり、同じ目標を目指す仲間としての相互理解や信頼が高まるでしょう。

チームがこのような状況になると、従業員同士がお互いを尊重し、自発的に目標達成や課題解決のために必要な行動を起こしやすくなり、生産性向上や目標達成の確率が高くなります。このような組織開発に成功すると、社内でイノベーションを起こすことも期待できるでしょう。

業績の向上

これまで紹介してきたように、エンゲージメントの向上によって生産性向上や目標達成の可能性が高まります。その結果、「営業利益率」や「労働生産性」が向上し、業績が良くなります。

その理由は、自己成長と企業の成長を同一視できるようになるからです。業績は一人ひとりの従業員が目標達成や生産性の向上を達成した積み重ねで成り立っています。利益率や生産性が高くなることで、得た利益を報酬として還元することも、次の利益を上げるための投資に回すことも可能です。どちらを選択しても、企業はさらなる成長に向けたアクションを起こせるため、より高い業績を目指すことができるようになります。

離職率の低下

エンゲージメントが向上すると離職率が下がりやすくなります。これは、働きやすい職場であるほどエンゲージメントが向上し、仕事に対するやりがいを感じやすいからです。必然的に「仕事を辞めたい」と思う従業員が減るため、結果として離職率が低下し、長く従業員が活躍してくれるようになります。

近年は人材不足や採用・人材育成コストの増加など、人事面での環境変化が大きくなっていることから、定着率の向上は人材流出のリスクを軽減させ、採用コストの削減にもつながります。

エンゲージメントを高める主な施策

エンゲージメントを高めるためには、具体的にどのような取り組みが有効でしょうか。ここでは、エンゲージメントを高めるために実施する、主な施策について解説していきましょう。

人事評価制度を見直す

効果的な施策は人事評価制度を見直すことで、従業員を適正に評価することはエンゲージメントを高めるための第一歩といっても過言ではありません。従業員の努力や成果をきちんと認めることで、従業員が企業に貢献できていると実感できます。従って、まずは人事評価制度の見直しから取り組んでいくことをおすすめします。

エンゲージメントを高めるための人事評価制度としては「360度評価」や「MBO(目標管理制度)」が挙げられます。「360度評価」は人事評価制度の一つで、上司だけが従業員を評価するのではなく、先輩や同僚、部下や後輩などその従業員に関係のある他の従業員からも評価を受ける制度です。これにより、例えば「部下や後輩から慕われている」といった上司からは見えない従業員の一面を評価できるようになり、より納得感のある評価につながります。

また、「MBO(目標管理制度)」はチームや個人で目標を設定し、目標に対する達成度合いを評価する制度です。MBOの特徴は、目標達成につながる個別の目標を自ら決定し、達成に向けて自主的に動く制度です。
MBOは目標達成までのプロセスを決定する裁量をチームや個人に任せ、その結果を評価する制度です。チームや個人に自主性を認める制度なので主体的に考え、行動することが求められますが、そのぶん目標達成時のエンゲージメントが高まります。

職場環境を整える

従業員が働きやすいように職場環境を整えることもエンゲージメントの向上に有効なポイントです。例えば、ワークライフバランスが両立しやすいようにテレワークや時短勤務を導入することで柔軟な働き方を認め、従業員に裁量を渡すことはエンゲージメント向上に有効とされています。
福利厚生の充実など、直接的にメリットを提供することも企業への帰属意識向上につながることからエンゲージメント向上に効果があります。

社内のコミュニケーションを取りやすくする

社内のコミュニケーション向上はエンゲージメント向上の有効な要素です。従って、社内コミュニケーションが促進される職場環境づくりも重要です。例えば、1on1ミーティングの導入によって上司と部下が気軽にコミュニケーションを取る機会を設ける、社内SNSを導入して、業務連絡以外のコミュニケーションを促進するなどの方法が有効とされています。

経営理念やビジョンを共有する

エンゲージメント向上に重要な要素として、経営理念やビジョンの共有が挙げられます。企業の目指している方向性を従業員と共有することは、エンゲージメントを向上する上で極めて重要です。
企業が目指す方向を理解し、その方向性に向かって歩めるように従業員をモチベートすることで、従業員はエンゲージメントが高い状況で業務に取り組むことができます。

エンゲージメントが低い状態から脱却し、成長できる組織づくりを進めましょう

今回は、エンゲージメントが低い場合に企業が受ける影響やエンゲージメントが低い理由、そしてエンゲージメントを高めるための施策について紹介してきました。

働き方が多様化しても、企業や業務への愛着や誇り、貢献意欲といった要素は生産性と利益に直結しています。業績の高い企業はエンゲージメントを高めるための施策に取り組んでおり、今後も従業員のエンゲージメント対策の重要性はますます高まっていくでしょう。

エンゲージメントを高めるためには、人事評価制度の見直しや職場環境の整備、コミュニケーションの促進が有効ですが、何よりも経営理念の共有が必要です。すぐに人事評価制度の見直しや福利厚生の見直しが難しい場合には、まず経営理念の共有から始めていくことをおすすめします。
ぜひ、従業員のエンゲージメントを高めていき、生産性や業績向上を目指していきましょう。

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