ウェルビーイング経営とは? メリットや成功させるポイントを解説
ウェルビーイング経営とは、社員従業員の健康や幸福を重視し、企業全体の生産性や持続可能性を高める経営スタイルのことです。最近では、従業員の離職率低下や、新たな人材確保を目的に取り入れる企業が増えつつあります。
この記事では、ウェルビーイング経営の具体的な意味やメリット、成功に導くためのポイントについて解説いたします。
ウェルビーイング経営とは
近年、企業経営において「ウェルビーイング経営」という考え方が注目されています。ウェルビーイング経営について考える前に、まずは「ウェルビーイング」とは何かを確認しておきましょう。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(well-being)とは、精神的、肉体的、さらには社会的に充足した状態を指します。日本語で「幸福」と訳されることがありますが、一般的には「幸福」の英訳は「happiness」に当たります。「happiness」は一時的な状態を指す言葉です。
一方、ウェルビーイングは持続的な状態を指す言葉であり、厳密には「幸福」は当てはまりません。
ウェルビーイング経営とは、自社の利益の追求のみならず、従業員一人ひとりのウェルビーイングの向上を目指す経営のことをいいます。
健康診断などを通して社員の身体的な健康を目指すだけでなく、生き生きと働けるような施策を講じます。
ウェルビーイング経営とは
ウェルビーイング経営は、従業員の心身の健康や働きがいを高めることが、企業の持続的な成長や生産性の向上につながるという考え方に基づいた経営手法です。従来の経営では、企業の利益追求や業績向上が主な目標とされてきましたが、ウェルビーイング経営では、それに加えて従業員一人ひとりの幸福度を高めることが重要視されます。従業員一人ひとりが生き生きと働ける環境を整えることが重要視されます。
具体的には、健康管理やメンタルヘルスのサポート、ワークライフバランスの推進、心理的安全性の確保など、さまざまな施策を取り入れながら、従業員が生き生きと働ける環境を整えていくことが求められます。企業が従業員のウェルビーイングを重視することで、組織全体のエンゲージメント向上や人材の定着率改善にもつながります。
ウェルビーイングの定義
ウェルビーイングという言葉を初めて使ったのは、施思明(スーミン・スー)氏だといわれています。施思氏は、1946年の世界保健機関(WHO)設立当時、設立者の一人だった中国の外交官です。施思氏が、WHOの機関名や憲章の中に「健康」を盛り込むことを提案したといいます。
これを受けて、WHOでは「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること」と定義しました。
ウェルビーイング経営が求められる背景
ウェルビーイング経営が求められるようになった背景には、次の4つの要素があります。
社会的背景
近年、働き方改革の推進や、SDGsの実現に向けた取り組みが進む中、「人」を中心とした経営の重要性が高まっています。
特に、コロナ禍以降、働き方や生活様式が大きく変化し、従業員の健康や幸福が企業の競争力を左右する重要な要素として注目されています。
これに伴い、「従業員の健康」と「企業の成長」を両立させるウェルビーイング経営が、広まりつつあります。
経済的背景
少子高齢化や労働人口の減少が進む日本で、企業にとって人材の確保と離職率の低下が大きな課題となっています。
また、従業員のエンゲージメントが低い場合、企業の生産性が損なわれるリスクがあることも指摘されるようになってきました。
このような状況下で、従業員が健康的かつ前向きに働ける環境を整備することは、企業価値を向上させるための重要な投資となっています。
従業員の期待の変化
現代の労働者は、単なる給与や福利厚生以上に、働きがいや職場での自己実現を重視する傾向があります。
ウェルビーイング経営は、従業員一人ひとりの幸福感や満足感を向上させると同時に、企業への忠誠心やモチベーションを高める効果があります。このため、ウェルビーイング経営に取り組むことは、優秀な人材の採用・定着を支える重要な要素となっています。
法規制や社会的責任
日本では、メンタルヘルス対策の義務化や、ハラスメント防止の取り組みなど、労働関連の法規制が強化される中で、企業に求められる責任の範囲が拡大しています。
ウェルビーイング経営は、こうした法的要件を満たすだけでなく、企業が社会的責任を果たす手段としても注目されているのです。
ウェルビーイング経営のメリット
ウェルビーイング経営へ取り組むことで、従業員だけでなく企業にとっても大きなメリットが期待できます。
従業員の健康増進とメンタルヘルスの改善
ウェルビーイング経営は、健康診断やストレスチェックの実施、健康相談窓口の設置、運動機会の提供などを通じて、従業員の健康増進を図ります。 この結果、生活習慣病の予防やメンタルヘルスの改善につながり、休職や離職の減少が期待できます。
従業員満足度の向上
ウェルビーイング経営では、従業員の「働きがい」や「幸せ」を重視するため、職場全体の満足度向上が期待できます。
たとえば、従業員が安心して働ける健康的な環境を提供することで、ストレスが軽減され、職場の雰囲気が良くなったり、従業員のニーズに合った福利厚生を提供するなど企業が個々の従業員に寄り添う姿勢を示すことで、企業への信頼感や愛着が高まったりします。
従業員満足度が向上することで、従業員一人ひとりが仕事に対してポジティブな感情を持ちやすくなります。
生産性・企業価値の向上
従業員が健康的でモチベーションの高い状態で業務を行うことで、パフォーマンスの向上が期待できます。職場環境が整備され、ストレスが軽減されると、集中力や業務効率が向上し、企業全体の生産性も高まります。
また、ウェルビーイング経営に取り組む企業は、社会的な評価が高まりやすく、企業のブランド価値の向上にも寄与します。ウェルビーイングを推進することは、企業の社会的責任(CSR)の観点からも重要視され、取引先や顧客からの信頼を得る要素となります。その結果、市場での競争力が強化され、長期的な企業価値の向上につながるでしょう。
従業員の離職防止・人材の確保
ウェルビーイング経営は、従業員の離職率低下にも効果的です。
なぜなら、職場環境や企業文化が整っていると感じる従業員は、長期的に働き続けたいと考えるためです。
また、こうした取り組みは採用活動にも有利に働きます。
求職者は、健康経営やウェルビーイングを推進している企業を魅力的と感じる傾向があるため、優秀な人材の確保につながるでしょう。特に、若い世代の労働者は、働き方やライフスタイルとのバランスを重視するため、ウェルビーイング経営が一層の注目を集めています。
社会貢献とSDGsへの貢献
従業員のウェルビーイングを重視することは、企業内だけでなく社会全体の幸福度向上にも貢献します。企業が従業員の健康管理やワークライフバランスを推進することで、働く人々の生活の質が向上し、持続可能な労働環境の整備にもつながります。長時間労働の是正や、メンタルヘルスのケアを積極的に行うことで、社会全体の健康意識の向上にも寄与します。
また、ウェルビーイング経営は、持続可能な社会の実現を目指すSDGsの達成にも貢献します。例えば、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」や、目標8「働きがいも経済成長も」などの実現に向けた取り組みと密接に関係しています。企業がウェルビーイングを推進することで、単なる業績向上だけでなく、社会的な責任を果たし、企業の持続可能な成長にもつながるのです。
顧客満足度向上とブランドロイヤルティ向上
従業員の満足度は、顧客満足度にも大きな影響を与えます。
モチベーションの高い従業員は、顧客に対して丁寧で質の高いサービスを提供し、結果として顧客の満足度やロイヤルティの向上につながります。
従業員が心身ともに健康で意欲的に働ける環境が整っていれば、顧客対応の質も向上し、企業の評判にも好影響を与えるでしょう。
また、企業が従業員のウェルビーイングを推進することは、企業のブランド価値を高める要因にもなります。従業員が誇りを持って働ける企業は、顧客からの信頼も得やすく、長期的な関係構築につながります。さらに、顧客の満足度が向上することで、リピート率の向上や口コミによる新規顧客の獲得にも貢献し、結果として企業の収益性向上にもつながります。
ウェルビーイング経営のデメリット
ウェルビーイング経営には多くのメリットがある一方で、導入や運用においていくつかの課題やデメリットが存在します。
導入コストを負担しなくてはならない
ウェルビーイング経営を導入する際に、初期投資や運用コストがかかる場合があります。
たとえば、従業員の健康をサポートするためのツールの導入やオフィス環境の改善、外部コンサルタントの雇用などが挙げられます。特に、中小企業にとっては、このコスト負担が大きな障壁となることが少なくありません。
コストの問題を解消するためには、助成金や補助金を活用したり、段階的に導入したりといった工夫が有効です。
成果が見えにくい場合がある
ウェルビーイング経営の効果は、短期的には見えにくい場合があります。
従業員満足度やエンゲージメントの向上は、数値化が難しく、経営層がその成果を実感するまでに時間がかかることがあります。そのため、導入後に経営層のモチベーションが下がる可能性もあります。
この問題を解決するためには、成果指標を明確化し、定期的に評価を行うことが重要です。
たとえば、従業員満足度調査や離職率、欠勤率の推移をデータで把握し、施策の効果を可視化する取り組みを行いましょう。
既存の文化や慣習が障害となりやすい
ウェルビーイング経営を成功させるには、単なる福利厚生の充実だけでは不十分で、経営者や管理職を含む全社員の意識改革が必要です。しかし、組織全体での価値観共有や行動変容は簡単ではなく、既存の文化や慣習が障害となることがあります。
解決策としては、経営層が率先してウェルビーイング経営を推進し、従業員との対話を重ねながら、全社的な理解と共感を得ることが大切です。 また、トレーニングやワークショップを実施し、徐々に組織文化を変革していくのも効果的です。
従業員間での不公平性が問題になることがある
ウェルビーイング経営の施策が一部の従業員だけに恩恵をもたらすと、ほかの従業員との間で不公平感が生まれる可能性があります。たとえば、リモートワークが可能な部署とそうでない部署の間で不満が生じることがあるなどです。
この問題の解決策としては、各部署や従業員の特性に応じた柔軟な施策を設計し、全従業員がメリットを享受できるように配慮することが大切です。また、全社で共通する価値観や取り組みを軸に施策を進めることが大切です。
ウェルビーイング経営の参考になる考え方
ウェルビーイング経営に取り組む上で知っておきたい、関連の深い考え方を2つご紹介します。
PERMA(パーマ)モデル
PERMAモデルとは、米国の心理学者マーティン・セリグマン(Martin E. P. Seligman)氏が提唱する、ウェルビーイングを構成する5つの要素の頭文字を取ったものです。
5つの要素の要素は、下記の通りです。
- Positive Emotion(前向きな感情)
- Engagement(没頭できること)
- Relationship(ポジティブな人間関係)
- Meaning and Purpose(意味や目的)
- Achievement/ Accomplish(達成)
ギャラップ社の考える要素
米国で世論調査やコンサルティングを手がけるギャラップ社(Gallup, Inc.)では、以下の5つの要素を重視しています。
- キャリア(Career)…仕事を楽しみ、毎日やる気を感じられること
- 人間関係(Social)…支えてくれる人間関係や愛情があること
- 経済状況(Financial)…経済的な安定と安心感があること
- 心身の健康(Physical)…良好な健康状態と十分なエネルギーがあること
- 地域社会(Community)…住んでいる地域に愛着や誇りを感じられること
ウェルビーイング経営を成功させるポイント
ウェルビーイング経営を成功させるポイントとしては、下記の3点が挙げられます。
メンタルヘルスの施策・労働環境を見直し、改善する
従業員の精神的な健康を守るためには、働き方や職場環境を見直すことが重要です。
自社のメンタルヘルスの施策や労働環境を見直し、改善すべき点がないかどうかをチェックしましょう。
たとえば、以下のような取り組みが効果的です。
柔軟な働き方の導入
リモートワークやフレックスタイム制の導入により、従業員がライフスタイルに合った働き方を選択できる環境を提供します。
快適な職場設備の整備
自然光や休憩スペースを取り入れたオフィス設計や、騒音対策などの環境改善も大切です。
コミュニケーションの活性化
職場のコミュニケーションが良好であれば、従業員同士が信頼関係を築くことができ、チーム全体のパフォーマンス向上が期待できます。具体的には、以下のような方法でコミュニケーションを活性化させましょう。
1on1ミーティング
上司と部下が個別に話す場を定期的に設けることで、従業員の悩みや要望を直接聞き取り、的確なサポートを提供できるようになります。
横断的な交流イベントや共同プロジェクト
部門を超えた交流イベントや共同プロジェクトを通じて、従業員同士の関係を深めます。
オープンでフラットな情報共有
社内SNSや定例会議を活用して、全従業員が最新情報を共有し、共通の目標に向かう意識を高めます。
従業員サーベイの実施
ウェルビーイング経営を効果的に運用するためには、従業員の声を継続的に収集し、改善策を講じることが必要です。
以下のような手法で従業員サーベイを実施することで、具体的なデータをもとにした改善が可能になります。
匿名でのアンケート
従業員が自由に意見を述べられるよう、匿名性を確保しつつ、アンケートを実施します。職場環境や経営施策に関する率直な意見が集まるでしょう。
サーベイツールの活用
専門のサーベイツールを利用することで、回答データを効率的に集計・分析できます。
この結果、迅速な施策立案が可能となります。
結果の共有とアクションプラン作成
調査結果を全従業員と共有し、具体的な改善アクションを設定することで、従業員が施策に対する信頼を深められるでしょう。
まとめ
ウェルビーイング経営は、従業員の健康や幸福を重視することで、企業の生産性向上や持続可能な成長を実現する重要な経営手法です。健康経営やSDGsの視点とも親和性が高く、現代の企業経営において不可欠な要素となりつつあります。
本記事で紹介したように、ウェルビーイング経営の導入には、従業員の健康増進やエンゲージメント向上、職場環境の改善、コミュニケーションの活性化など、さまざまな施策が求められます。また、継続的な改善が不可欠であり、従業員の声を反映しながら柔軟に制度を見直すことが成功のカギとなります。
企業がウェルビーイング経営に取り組むことで、従業員の満足度や働きがいの向上につながり、優秀な人材の確保や定着にも貢献します。さらに、ブランド価値の向上や社会的な評価の獲得にもつながり、企業の競争力を高める要素となるでしょう。
持続可能な成長を目指す企業にとって、ウェルビーイング経営の実践は欠かせない取り組みです。従業員の健康と働きがいを重視し、組織全体の成長を促すために、ウェルビーイング経営の導入を検討してみてはいかがでしょうか。