第9回 ダイバーシティ
ダイバーシティとは
ダイバーシティを端的に解釈すると「多様な人材を積極的に活用しよう」という考え方です。もともとは1990年代にアメリカで深く浸透したもので、人種や性別、年齢や宗教といった社会的マイノリティにこだわることなく人材の能力を最大限引き出して活躍してもらおうということが始まりでした。
日本においては人種や宗教ということではなく、とりわけ「女性活躍」に議論の枠組みが閉じられがちでしたが、ここ数年は個人の価値観やそれぞれのライフスタイルに合った働き方など、より大局的な議論が活発化してきています。
ダイバーシティが重要視されている背景
そもそもダイバーシティが日本で注目されるようになった背景は第6回目の「リーダーシップとマネジメント」の回で述べたことに繋がっています。
- ユーザー価値観の多様化
- コモディディ化のスピードアップ
- グローバル化
ダイバーシティ推進においても、主にこの3つの時代背景がキーワードになっています。
1. ユーザー価値観の多様化
ユーザーの価値観が多様化する中、サービスを生み出す企業も様々な角度からユーザーニーズを検証できる多角的なアンテナを備えておかなければ市場から淘汰される。
2. コモディディ化のスピードアップ
あらゆるサービスの価値がおおよそ半年というサイクルでコモディディ化するスピード社会において、多様な視点で発想される多くの斬新なアイデアが数多く創出されることは組織にとって貴重な資産。
3. グローバル化
ITの進歩によって優れたサービスは即座に海外へと発信できる土壌が整っているにも関わらず、その志向性のないナショナルな組織は多言語対応が可能な外国人の雇い入れが進まず競争力を失う。
上記3つの時代背景を基に、組織の中に存在する多様な価値観をベースにした働き方を受容し、異なるバックグラウンドに下支えされた豊富なアイデアが積極的に活用されれば、継続的な企業発展に繋がっていきます。見方を変えれば「ダイバーシティ」とは企業が競合と対等に競争していく上で今や欠かせない重要な経営戦略のひとつと言えるかもしれません。
属性と働き方、かかわり方の多様性
ダイバーシティを組織マネジメントという観点で眺めてみると大きく3つの枠組みに分類できます。
①属性 |
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②働き方 |
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③かかわり方 |
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ダイバーシティの系譜を辿れば、「①属性」はその根幹をなすものです。「②働き方」を見ても、ダイバーシティの考え方が日本に輸入されて以来、集中的に議論されてきた重要な論点です。しかし、管理者や育成担当者という視座視点から現場(職場)を見た場合、①と②は既に決まったものとして受け入れることが前提ではないでしょうか。
世論のアプローチは紛れもなく①→②→③の順で展開されていますが、現場の管理者および育成者がダイバーシティを意識する場合、むしろより属人的な「③かかわり方」をどう捉えるかにかかっていると言っても良いでしょう。
例えば、部下や後輩と日常業務の中でかかわりあいながら、働く時間に対して理解尊重を示すからこそ短時間労働や産休育休の実施がストレスなく進みます。日常の中で部下や後輩のバックグラウンドを共有できているからこそ、例えば在宅勤務を後押しできます。日々の仕事のクオリティの高さを部署全体で認めているからこそ、自分より年齢がはるかに若くても意見を聞き入れたいと思うわけです。
ダイバーシティの推進は制度ありきでは決して機能しません。制度を導入しただけで風土は醸成されないからです。風土はその集団に集う人ひとり一人の行動が積みあがってはじめて生まれるものです。だからこそ職場の管理者や育成者の方々が多様な属性や働き方をする方々に対して積極的に理解を示す必要性が生まれます。また時には、個人のキャリア志向性・保有スキルやライフステージの変化に合わせてこちらから多様な働き方を率先提案することで、組織全体として多様性を受け入れる風土を前進させることが必要だと言えるでしょう。
それでは「③かかわり方」をもう少し具体的に見ていきましょう。
モチベーションポイントの違い
多様性の中において人が何をメリットに感じるかも千差万別です。たとえばキャリアパスを同一組織内で明確に志向している正社員ならば「数字を達成すれば昇進が近くなるぞ!」という動機づけが機能するかもしれません。しかしどれだけ頑張っても組織内ポジションが変化しない契約社員に対してその投げかけが響くことはありません。
つまり、多様な働き方を受け入れ、かかわり方からその風土を醸成していこうと考えた瞬間から、管理者育成者は、部下や後輩の個々に応じた動機づけのポイントをストックできているかを問われます。心理学的動機づけフレームに「タスク重要度」というものがありますが、タスク重要度とは個人にとって異なる業務ミッションのメリットを伝えることで当人の動機づけを強くするというものです。
ここでのポイントは「あなたにとって何がメリットなのか」というメッセージを伝えることにあります。しかし「あなたにとって」を語るためには「あなた」を「私」がきちんと理解しなければなりません。上述したような「昇進が近づく!」ということもそうですが、立場によっては「早く帰れる!」「あなたの世代では初めての試みで注目度が高い!」など、動機づけひとつとっても、その人個人に向けた戦略的なコミュニケーションが多様性を推進する大きな一歩になっていくわけです。
そう考えると多様性を実現する上で、個人が抱く様々なキャリアパスの理解を日頃の業務で共有することが極めて重要なポイントであることが見えてきます。組織として雇用形態の選択肢や人事制度改変・福利厚生や処遇の変更といったわかりやすい部分からダイバーシティを導入していくことは致し方ありません。しかしダイバーシティを制度だけでは終わらせない意味のあるものに仕上げていくためにも、管理者や育成担当者は多様性という中で奮闘する部下との向き合い方を模索し、密度の高い戦略的なコミュニケーションを日常的に発揮し続けるという重要な責務を担っていると言えるでしょう。