第15回 職場におけるハラスメントとは?対策やなくすための教育
ハラスメントとは
ハラスメントとは、「嫌がらせ」や「いじめ」を意味する言葉です。広義には「人権侵害」を意味し、性別、人種、民族、国籍、年齢、職業、宗教、社会的出自、身体的特徴、セクシュアリティ、または一般的な性格などの特性に基づいて、相手に不快感や不利益を与え、その尊厳を傷つけることを言います。
近年、職場における「ハラスメント」が急増しており、人事管理上の深刻な問題となっています。
一般社団法人日本ハラスメント協会は、ハラスメントの種類は30種類以上におよぶと警鐘を鳴らしています。職場の管理者や人事担当者が特に気を配るべきハラスメントとしては「パワーハラスメント」「セクシャルハラスメント」「モラルハラスメント」「マタニティハラスメント」「ジェンダーハラスメント」の5つが挙げられるでしょう。
ハラスメントにはさまざまな種類がありますが、すべてのハラスメントに共通するのは、相手に対する言動によって不快や脅威を感じさせることです。ハラスメントを行っていることを本人が自覚しておらず、ハラスメントを受けている本人も直ぐには申告しないケースが多く見受けられ、事態を深刻化させる要因ともなっています。
増加するハラスメントと国の対策
厚生労働省によると都道府県労働局等に設置した総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は年々増加し、2010年度に39,405件だった相談は2019年度では87,570件もの相談件数となり、10年で2倍以上に増加しています。
国としてもこの事態は重く受け止め、職場のハラスメント対策として、2019年5月、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が成立し、パワーハラスメントの防止措置を事業主に義務付けました。
大企業は2020年6月1日から、中小企業の事業主も2022年4月1日から義務化されています。
この法改正により雇用主は、以下の措置をとる必要があります。
- 企業(事業主)によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発
- 苦情などに対する相談体制の整備
- 被害を受けた労働者へのケアや再発防止等
罰則規定がないことが、一部で問題視されていますが、パワハラが常態化して改善が見られない企業は、企業名が公表されることが決定しています。
企業で求められるハラスメント対策
ハラスメントは業界や規模に関係なく、あらゆる組織で発生する可能性があります。職場でハラスメントが発生すると、被害者や加害者だけでなく、周囲の従業員や組織にもさまざまな影響を及ぼします。
特に組織への影響は大きく、以下のような悪影響が生じることが懸念されます。
- 社員のモチベーション低下
- 企業イメージの低下
- 生産性の低下
- 人材の流出
- 労災や訴訟への対応
- 損害賠償などのコスト
ハラスメントを未然に防止するためには、従業員一人ひとりがハラスメントについて理解を深め、誰もが当事者になり得るという認識を持つことが重要です。このような観点から、ハラスメント教育に注力する企業は急増しています。
ハラスメント教育
ハラスメント教育とは、主にハラスメントについての基本的な理解、職場で気をつけるべきこと、ハラスメントを防止するための環境づくり、ハラスメントが発生した場合の対応方法などを学ぶことを指します。
ハラスメント教育の実施に明確なルールはありませんが、人事担当者が社内講師となって実施するケースや、外部の研修会社等に委託するケースも多く見受けられます。
近年ではeラーニングや動画コンテンツの視聴を通して啓発を促す取り組みも増えています。各企業の置かれている状況に基づいて最適な教育手段を構築していくことが重要です。
対象者は基本的には全社員に対して行うことが求められます。ただし、職場でのハラスメントについて重要な責務を担う管理職に対しては、内容、開催頻度、実施時間等、より手厚く行う必要があるでしょう。
研修の進め方も重要なポイントです。一般論の講義だけでは受講生が退屈してしまうことも多く、具体的な事例についてロールプレイやグループディスカッションを行う等、双方向で学びの場を創る工夫が必要です。
東京大学医学系研究科の調査では、ハラスメントやメンタルヘルス研修の効果は最大1年間持続すると言われています。逆に捉えると、研修の効果は時間が経つにつれて減少していくとも言えます。
特に、管理監督者の知識・行動レベルの教育効果は半年程度で消失する可能性が示されていいます。1度きりの研修ではなく、継続的な研修を実施することが望ましいでしょう。
まとめ
昨今増加の一途をたどるハラスメントについて、企業の管理者や人事担当者は腰を据えて取り組む必要があることをご理解頂けたのではないでしょうか。
厚生労働省の「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書(平成28年度)」によれば、ハラスメント(パワーハラスメント)予防の取り組みとして、「効果を実感できた取り組み」と回答した企業の割合が最も高かった取り組みは、管理職に対する研修(約70%強)でした。研修の効果を実感する企業は多く、一般職に対する研修(約70%弱)も高い効果が実感されています。
ハラスメント対策を行うと社員は安心して働くことができるため、職場環境が良くなり仕事の生産性向上やコミュニケーションの活性化、ストレスの軽減など多くの副次的な効果も見込まれます。
社員全員が働きやすい職場を実現するために、効果的なハラスメント教育を検討し実施していきましょう。