第6回 人材育成の外部委託と内製化
第5回では、人材育成の手段について見てきました。
これらの手段の中で、社内で実施するものと外部委託するものとに分けることができます。
外部委託というと、集合研修(Off-JT)をイメージされるかもしれません。 確かに、現在の外部委託は集合研修が主ですが、人材育成の全手段とも検討・選択する事が増加しています。
本稿では集合研修を含む、全手段の外部委託と内製化についての考え方を整理しておきましょう。
※「外部委託か内製化か?」を問う前に、人材育成を強化するどの手段から着手するのか、を決定する必要があります。
あるいは、今検討している手段が最適か否かを考えねばなりません。(前回までのHPIモデル参照)
その上で、取組み決定となった手段に対し、どのような形で実施するのが最適なのかを所与の条件を元に検討する必要があります。
外部委託にすべきか、内製化すべきか?そのメリット・デメリット
育成手段が決まったのち、外部委託にするか、内製化して社内で実施するかの意思決定を行う必要があります。
検討にあたって、外部委託、内製化について、それぞれの特徴を踏まえておきましょう。
外部委託とは、外部の人事・組織コンサルティング会社や研修会社等に委託することです。
外部委託のメリットは
- 専門性を活かした打ち手の企画(様々な方法論から選択)
- 有する既存コンテンツの活用(一から作る必要が無い)
- 自社状況に即した有効的コンテンツの構築(一からでも作れる)
- 他社・市場性を意識した「マクロとミクロの視点で設計できる」(視野広く検討できる)
- 社内の業務負荷が少なくすむ
- (集合研修であれば)プロのノウハウやスキルを効率的に学ぶことができる
デメリットとしては、それ相応のコストが発生します。また、内製化に比べ、社内に育成に関するノウハウは溜まり難いといえます。 特に指針設計に関するものは、完全外注すると自社の想い(意志)が含まれず、浸透に苦慮する事が多々あります。 外注と言えども協力体制で行う事が望ましいと言えます。
内製化とは、企業内において企画、開発、製作、実施、効果測定等の一連の業務を自社で完遂することです。 内製化のメリットは、
- 自社の個別状況に応じた設計・実施することができる(顕在課題に対応しやすい)
- 育成に関するノウハウが社内で蓄積される(社内ナレッジの効果が高い)
- 人事育成担当や教える側の講師にとって育成機会として活用することもできる(組織強化に至る)
- 現場や他事業部も巻き込み、全社構築のムードを高めやすい(風土改革の促進)
デメリットとしては、専門的知見・経験が浅いと表層的な企画や社内だけのマクロ視点に終始した設計になること、コンテンツ作成や講師養成に時間がかかること、 品質担保が難しいこと、トータルで見た場合、社内コストが増加する可能性もあります。
検討対象となる業務
人材育成に関連する業務において、内製化と外部委託を検討する業務として、以下が挙げられるでしょう。
- 人材育成にまつわる現状調査
- 求められる人材の要件定義や育成体系の構築
- 昇進や昇格にまつわる人事アセスメント
- 組織診断や従業員満足度調査などのサーベイ
- タレントマネジメントシステムやe−ラーニング・受講管理など育成にまつわる各種システムの構築
- 集合研修やe-ラーニングなどのOff-JT
- 研修の受講案内や受講後フォローなどの業務オペレーション
- 業務遂行時の求められる行動の明確化と、イラスト・映像など浸透させるための可視化
- 経営幹部層を対象としたエグゼクティブコーチング
- 自己啓発の促進
これらについて、内製化で行うのか、外部委託を行うのかについては、 基本的には『目的』と『ゴール』、『社内リソース』の充実度よって意思決定を行います。
『目的』とは、「何のためにこの手段を行うのか?」です。
『ゴール』とは「どのレベルで実現したいのか?」となります。
例えば、人材アセスメントを実施するにあたって、『目的』が
「若手の階層別研修の育成体系をつくるための情報整理」ということもあれば、
「次期経営幹部層の発掘」ということもあり得ます。
それぞれの『目的』に応じ、『ゴール』は変わります。
前者であれば、「若手全体として求められる能力と現状の能力のギャップが概観として整理できている」ということになるかもしれません。
後者であれば、「課長層の一人一人の経営能力についての精緻な能力プロフィールが完成していること」となるかもしれません。
次に、ここで検討した『目的』、『ゴール』が、『社内リソース』で実現可能なのかを検討します。
『社内リソース』で実現できないのであれば、外部委託を選択するしか道はありません。
例えば、先ほどの例で挙げた「次期経営幹部層の発掘」のために、
「課長層の一人一人の経営能力についての精緻な能力プロフィールが完成していること」という業務であれば、
かなりの専門性が必要となることが予想され、社内で対応できる人材は存在しない会社がほとんどでしょう。
このような場合であれば、外部委託しか選択肢はありません。
『社内リソース』で実現できるのであれば、内製化か外部委託かの検討を行います。
支払う金銭的なコストに対し、得られる価値、実施までの時間、リスク、その他の影響要因を踏まえた上で意思決定を行います。
外部委託については、複数のベンダーから情報を集め、精緻に検討を進めることが必要です。
内製化については、実施までの時間やリスクについての見通しが甘く失敗するケースも多いようです。
関係する部署や人と綿密な計画を立てることがポイントとなるでしょう。
集合研修の内製化を機能させるためのポイント
外部委託が適応しやすい研修としては、新入社員研修や管理職研修などの階層別研修、論理的思考やマーケティング、 コーチング、財務会計などのビジネススキル研修、戦略メソッドやマインドチェンジなど独自のノウハウを習得する研修、 AI、IOT、フィンテック等の専門領域における最新動向を提供するものが挙げられます。
内製化が適応しやすい研修としては、経営理念の浸透や経営ビジョンの共有の為の研修、 社内ルールやコンプライアンスの理解と徹底を目的とした研修、業界、業務、商品等の知識習得の研修が挙げられます。
リーマンショック以降、研修の外部コストを抑制することを目的に、内製化に取り組んだ企業も多くありますが、
残念ながら効果が出ていないという声もよく聴きます。
様々な原因が考えられますが、共通しているのは、上記のデメリットを軽く考えている、
或は、デメリットに対しての対策が不足していることが挙げられます。
内製化を機能させるためには、まず、上述のデメリットを認識した上で、以下のポイントを踏まえておくことが重要になります。
- 現場の意向を汲み取りながら、適切な人材を講師として任用すること。
- 任用した講師に対し、講師養成トレーニングをしっかりと行うこと。
- 属人的なノウハウや知見の展開とならないよう、教材開発を講師任せにせずに、複数のメンバーで行うこと。
これらのことを念入りに行って、初めて内製化は成功します。
何となくコスト削減を目的とした内製化を行い、育成の効果がでなければ本末転倒です。
内製化すべきかどうかについては、慎重に議論を行いましょう。
集合研修における、外部委託の種類と留意点
集合研修だけにフューチャーしてみると、外部委託は大きく分けると二パターンあります。
一つは、研修会社が広く受講者を募る公開型研修に参加するもの。
二つ目は、研修会社に委託し、自社に講師を派遣し研修を実施してもらうパターンです。
さらに、講師派遣型研修においても、研修会社が標準的に提供するパッケージ型研修と、自社用の特別仕様にしたカスタマイズ型研修があります。
公開型研修は、社員1名から派遣して、参加させることができます。
活用場面としては、ピンポイントで特定の社員の育成を行いたい時が挙げられるでしょう。
或は、社員の自己啓発施策の一環で活用する企業も数多く存在します。
都心部であれば、大手の研修会社を中心にかなりの種類の研修が用意されており、社員の自己啓発施策の受け皿として十分に機能します。
講師派遣型研修では、自社に対し、研修会社から講師と研修プログラムを提供してもらいます。
研修会社では、長年の知見を元に「パッケージ型研修」と呼ばれる標準型のプログラムを用意しています。
特段の事情がないのであれば、「パッケージ型研修」で事足りることも多いでしょう。
ただし、「パッケージ型研修」で取り扱う内容やスキル、事例が自社の状況とそぐわない場合が発生することもあり、
そのことが学習効果に少なからず影響を及ぼすのであれば、「カスタマイズ型研修」を研修会社に依頼してみることも一案です。
「カスタマイズ型研修」では、自社の個別の事情を考慮し、研修内容に手を加えるため、 より現場の実情にそったものを提供できるというメリットがあります。ただし、基本的に追加のコストが発生します。
また、「カスタマイズ型研修」については、引き受けないというスタンスの研修会社も存在するため、事前に研修会社に相談することが必要です。