STEP1 人材育成の基礎知識

第3回 ストレスマネジメントのやり方と具体例を紹介

仕事を進めていく上で必ず付きまとうものが「ストレス」です。
適度なストレスはその人のモチベーションを向上させたり、行動を促進したりといったポジティブな役割も果たしますが、過度なストレスは人に様々な悪影響を及ぼすことがあります。

日々の業務の中で生まれる様々なストレスとうまく付き合う術は、出来るだけ早期に身に付けておくことが望ましいでしょう。
なぜならば、若手社員の段階でそれらの知識を獲得しておくことで、ストレスを最も感じやすい40-49歳(日経BPコンサルティング調べ 2015)で自らのストレスマネジメントが適切に機能するからです。

職業人生において充実感の高い40-49歳は、多くの権限と責任を組織から与えられる中間管理職層の世代です。
その時期にストレスと適切に向き合い、うまく共存しながら仕事を進めていく為にも、ストレスレベルがそれほど高くない若手社員のタイミングでストレスと上手に向き合うコツを手に入れておくことが肝要であると言えます。

ストレスとは

そもそもストレスとは、外界からある刺激が加えられ、その際に生体側に生じる歪みのことを言います。
また、そのストレスの元凶となる要因(それを「ストレッサー」と言います)を理解し、そのストレッサーに対して深く理解をすることも大切です。
これらストレスの枠組みは以下のABC理論で説明できます。

ABC理論とは、心理療法家 アルバート・エリスによって1995年に提唱された論理療法のひとつです。
不安や憂鬱、怒りや悲しみ、苛立ちなどの感情が生じるのは、身の回りで起きるあらゆる出来事や環境の変化が原因だと一般的には考えられています。

しかし論理療法では、感情は出来事(A)そのものに起因するのではなく、各々の固定観念(B)によって生み出された結果(C)であるという考え方に基づきます。
つまり、出来事や変化を個人がどう受け止めたかによって感情が起こり、その感情によってストレスの大きさが変化するということです。

ストレスと上手に付き合うための2つの切り口

ストレッサーを低減する(ストレスの事前予防)

ストレッサーになりうる出来事(A)に対して固定観念(B)をどのようにコントロールするのか

ストレスを発散する(事後処理)

ストレスになり得る結果(C)を、どのように低減したり取り除いたりするのか

ストレッサーを低減する(ストレスの事前予防)

出来事(A)はストレッサーになり得る可能性があるだけで、あくまでも出来事(A)を当事者が固定観念(B)を介してどのように認知するかにかかっています。
まさに固定観念(B)は、その出来事(A)がストレスになるか否かの分水嶺と言えるでしょう。

ラショナル(合理)ビリーフとイラショナル(非合理)ビリーフ

同じ出来事(A)であっても、ストレスを感じやすい人とそうでない人がいるのは、固定観念(B)の認知の仕方が全く異なることに起因します。

上記の場合、Aさんは上司からの一言に対して「○○しなければならない」という認知をしています。
たとえば、人は誰しもが失敗するはずなのに「失敗してはならない」と思い込むことを「イラショナル(非合理)ビリーフと言います。
上司からの要望(出来事A)はAさんもBさんも同じであるにもかかわらず、ストレスを強く感じるのはラショナル(合理)ビリーフで認知をしたBさんよりも、イラショナル(非合理)ビリーフで認知をした「Aさん」ということになります。

では育成の場面において、このイラショナル(非合理)ビリーフをラショナル(合理)ビリーフに寄せるためにはどうすればよいのでしょうか。
できることがあるとすれば、固定観念(B)の手前にある出来事(A)をコントロールしてあげることです。

「今回のプロジェクトは頼んだぞ!」。
文末の「頼んだぞ!」という言葉には上司と部下という「縦」の関係が潜んでいます。
コミュニケーションが縦方向で発信されると、上司のポジションパワーが働くので、それだけの理由で部下はイラショナル(非合理)ビリーフを発動しやすくなります。

そこでたとえばコミュニケーションを「横」の関係に置き換えると、「今回のプロジェクトは面白くなりそうだな!」といった表現に変わります。
横の関係とは、コミュニケーションの筋を、行為や事実に絞ることを指します。

×縦の関係
「頼んだぞ!」→人物に焦点が当たる→イラショナルビリーフに繋がる
○横の関係
「面白くなりそう!」→行為や事実に焦点が当たる→ラショナルビリーフに繋がる

上司から指示命令を受けて仕事をすることの多い若手社員は、上司からの縦のコミュニケーションを高頻度で受け取っています。
若手社員の自助努力としてストレス耐性を高めることを要求することも大切ですが、強いストレッサーになりかねない上司の発言を上司自らコントロールすることによって、部下のストレスを減らすことが可能です。

最近の若者はストレスに弱いと嘆く前に、ストレスによって将来の大切な人材を疲弊させてしまうことがないよう、上司もコミュニケーションという側面から自らのストレスマネジメントスキルを向上させる必要があります。

ストレスを発散する(事後処理)

上司がどれだけ横のコミュニケーションを意識しても、或いはコミュニケーションを受け取る部下が固定観念(B)をどれだけコントロールできたとしても、ストレスの発生を完全に封じ込めることは不可能です。
そこで次に、受けたストレスをどのように発散するのかという事後処理の考え方が大切になります。

ストレス発散の3つのポイント

過去にとらわれ過ぎない

同じ出来事でもそれを明るく捉えるか悲観的に捉えるかで良くも悪くも固定観念(B)は固着していきます。
過去の経験にとらわれ過ぎないように意識をすることによって、同じストレッサーであってもストレスを感じる度合いが軽減されます(過去を見ずに未来を向く意識を持つ)。

適度なタイミングで気分転換をする

ストレスをためやすい人は何でも生真面目に取り組む人に多いとされています。
ただ「疲れたな~」と思ったら気分転換を意識することが大切です。
ストレスの発散手法は様々なものがありますが、「好きなものを食べたり飲んだりする」「運動など体を動かす」「趣味に没頭する」が男女問わず上位にランクインします。

睡眠をしっかりとる

心身の疲労を回復するのに十分な睡眠は不可欠かつ効果的です。
特に、抗ストレスホルモンは朝に最も多く分泌され、昼間から夕方にかけてしだいに少なくなり深夜には最低に達します。
深夜に起きて仕事をしたり、ただ単に夜更かしするだけでもストレスに弱い身体を作ってしまうことになります。

ストレス発散の3つのポイントは本来、若手社員が意識することではありますが、日々の仕事に追われてそれを意識する余裕がないから結果としてストレスをため込んでしまいます。
だからこそ、上司や育成者から発信される日頃のOJTの中に、ストレスの<事前予防>と<事後処理>の観点を意識的に組み込くことが求められます。

育成は、部下の成果を最大化するプロセスばかりを考えがちですが、ストレスコーピングも含めたメンタルケアも重要な若手社員育成の要素だということを、組織全体として合意形成しておくことが重要だと言えます。

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