STEP1 人材育成の基礎知識

第5回 ティーチングとコーチング

部下の育成担当を担う管理職者として、部下や後輩の業務管理を担うことは組織目標を達成するためにも重要なミッションです。
しかし業務管理の一環として部下や後輩が抱える業務の課題や悩み事に対して行動支援を行う際、どのようなスタンスで関わればよいのかに苦慮する管理職者が多いように見受けられます。

そこで、部下・後輩の業務管理にかかるコミュニケーション手法としてティーチングとコーチングが活用されます。

ティーチングとコーチングの違い

ティーチングは、部下の中に行動の選択肢がそもそもない場合や、行動の選択肢はあるものの、その行動が一定水準でクオリファイされていない場合に多用されます。原則として、業務遂行に必要な対象者のスキルレベルの低い場合及び、依頼する業務難易度(リスク)が高い場合においてティーチングは有効的に機能すると言えます。

一方、コーチングは、部下の中に行動の選択肢があると想定されるものの、当事者である部下がその事実に気づいていない場合に活用されます。別名「相手の自発的行動を促すコミュニケーション」とも言われ、部下自身が自ら考え、行動決定し、自分自身に合意するという行為を支援することに本質的な目的を置いています。そのため、部下の業務管理に連動させながら部下育成のスキームと効果的に紐付けることが可能です。

それでは以下3つのポイントに沿ってメンター制度をより深く理解してみましょう。

ティーチングのメリットデメリット

ティーチングは主に、業務の目的→目的を達成するための目標→目標に到達するまでの具体的プロセス→各プロセスのポイントや注意点などを細分化し、指示命令を中心として部下に教えていきます。管理職者にとって大切なことは、目的志向で行動をブレイクダウンし、そのプロセスとポイントを緻密に細部まで認識している必要があるということです。

ティーチングメリット

  • スキルの低い部下でも一定レベルまで成果を高めることができる
  • 組織の目的達成に向けた部下の行動を管理しやすい

ティーチングデメリット

  • ティーチングを施す管理職者以上の観点で部下は物事が見られない
  • 部下の自立性を阻害し、考えて動く人材には育たない

ティーチングは指示命令及び部下からの報告・相談に対するフィードバックに基づく行動管理である為、部下の行動を規定・管理しやすくなるメリットがあります。但し、管理職者の指示命令の枠を超えた行動成果を生み出しにくいことや、部下が指示待ちに慣れてしまうことによって自律性を促進できないというデメリットも生まれます。

部下に対して「自ら考えて仕事を生み出してほしい」という世の管理職者の期待を鑑みれば、ティーチング一辺倒の管理・育成手法だけでは物足りないというのが本音でしょう。そこでその不足を補うのがコーチング手法ということになります。

コーチングのメリットデメリット

コーチングは主に、「傾聴」「承認」「質問」「提案」の4つのスキルで構成されています。この4つの枠組みを複合的に駆使しながら、コーチングを施す対象者である部下後輩の業務課題を解決していきます。

コーチングにおけるスタンダードな思考モデルに「GROWモデル」があります。現状とあるべき姿のギャップに対して、持ち得る資源を活用してどのような対策を打つべきかを4つのコーチングスキルで「本人に考えさせ」、意思決定させるのです。

コーチングメリット

  • 部下の自立性を育み、自責的な思考を醸成できる。実行力も高まる。
  • 答えは部下にあるので、コーチングを施す管理職者の価値観や経験則に依存しない

コーチングデメリット

  • スキルや経験値の低い部下には機能しない
  • 4つのコーチングスキルを的確に使いこなせるようになる為の鍛錬が不可欠である

コーチングを継続的に施せば、その対象者である部下が自律的・自責的に物事を考えられるようになるだけではなく、自発的な行動にコミットするようになります。

また、コーチングを施す管理職者はあくまでも「相手の中の答えを引き出す」役割を担っている為、ティーチングに求められたような行動の全ての妥当解をストックしておく必要性がないという点もメリットです。それは部下にとっても、上司の観点を闇雲に押し付けられないという自己尊重を見出し、結果として行動に対する更なるコミットを実現することにも繋がっていきます。

反面、コーチング最大のデメリットは、スキル習熟に時間がかかるという点にあります。人の潜在思考を小手先のテクニックだけでそう簡単に顕在化させることは出来ません。習熟には時間もコストもかかります。ビジネスの現場では多くの管理職者が表面的なコーチング手法を活用しながら孤軍奮闘しているというのが実態です。外部研修などでコーチングに興味を持たれたのであれば、少し時間をかけてコーチングの深層までじっくり学ばれることをお勧めします。

どちらのスキルも決して万能ではない

最後に、ティーチングとコーチングはどんな対象者や状況でも機能するわけではなく、機能しやすい領域とそうでない領域が明確に分類されていることを押さえておきましょう。それを示したのが以下の図です。

ティーチングとコーチングの機能領域

コーチングのデメリットにも記載している通り、たとえばコーチングはスキルが低い対象者にあまり機能しないと言われています(上の図では左下の領域)。それは答えとなるスキルや経験のストックが圧倒的に少ないからに他なりません。どれだけ引き出そうとしても、ストックされていないスキルはそもそも引き出しようがないのです。その領域ではティーチングが主となります。

但し、だからと言ってローキャリアにティーチングばかりを施すことも好ましくありません。ティーチングの繰り返しによって自ら考えることをやめてしまう指示待ち部下を生み出すことになるからです。

将来、物事を自発的・自責的に考えられる人材を育てる為には、組織的にも業務難易度(リスク)の低いこのタイミングで「考えさせる習慣」をつけなければいけません。答えが稚拙であることを管理職者や育成者が承知した上で、コーチングによって「考える癖付け」を行い、至らない部分をティーチングで補完していくことが肝要です。

今は組織をあげてコーチングスキルを社内トレーニングの必須プログラムとしている企業もあります。ひと昔前のティーチング手法と併せて、コーチングを多くの管理職者が学ぶことによって、自立自走できる強靭な組織体制を作ることに繋がっていくと言えるでしょう。

最新コラム

各種研修のお申し込みや
お試しの無料ID発行希望など