第6回 インフォーマルリーダーシップとは?
リーダーシップとは
初級管理者から中級管理者に求められる代表的なスキルに「リーダーシップ」があります。部下や後輩に対して優れたリーダーシップを発揮しながら成果を最大化することは組織戦略においての基本であり、管理者のリーダーシップスキル向上は重要要件だと言えるでしょう。
リーダーシップの定義は様々なフレームが存在しますが、以下の4プロセスに概ね集約されます。
リーダーシップの定義
- 事業(部門)戦略に基づいて、チーム単位の目標を複数定める
- その目標達成に向けた戦術オプションを構築する。
- 目標達成に向けて部下後輩のモチベーション管理・スキル開発支援を行う。
- 目標達成に向けた課題解決を現場レベルで推し進める。
但し今回は、上述した1~4の定義に沿ったリーダーシップスキルの開発ではなく、リーダーシップそのものの捉え方について焦点を絞り議論を進めたいと思います。リーダーシップの在り方・捉え方を人事部や育成担当者が深く認識することで、その対象者を初級管理者に限定せずとも、リーダーシップスキル強化の有用性を感じて頂くことに繋がっていきます。
リーダーシップとマネジメント
まず、リーダーシップを語るうえで比較の対象となるのがマネジメントです。
リーダーシップはマネジメントと比較して、より現場に近い存在であり、部下や後輩を直接的に牽引しながらチームの成果を高める働きを指します。一方、マネジメントは権限と責任の基、組織のルールや制度を巧みに駆使しながら部下を含む自らのチームが最大の成果を導き出せるように支援する働きを指します。
ここで注意すべきことは、「リーダー」=「リーダーシップ」・「マネージャー」=「マネジメント(シップ)」という画一的なフレームで認識しないことです。組織によってはリーダー職であってもマネジメントの側面を担っている場合や、マネージャー職であっても所謂「プレイングマネージャー」という形で現場の最前線で活躍しているマネージャーもいます。
リーダーシップもマネジメントも、その組織が定めた固有のポジションや肩書に紐付くのではなく、その管理者が部下とどのような関わり方をしているのかという、「場のコミュニケーション」に紐付けて解釈することが重要です。
インフォーマルリーダーシップ
更にリーダーシップを深く理解する為、2種類のリーダーシップに目を向けてみましょう。
どちらが優れているかという議論ではありませんが、理想はフォーマルもインフォーマルも持ち合わせているバランスの良いリーダーという答えは揺るぎません。とはいえ、それはフォーマルリーダーシップの肩書を持つことのできる初級管理者の話です。
インフォーマルリーダーシップは、役職やポジションに関係なく行使できる「自由なリーダーシップ」とも言われています。最大の特徴は、入社間もないローキャリア社員であっても十分にインフォーマルリーダーシップを行使できるという点です。
船頭多くして船山に上る
元来、日本では「船頭多くして船山に登る」という諺があるように、日本の文化的背景もあって組織はリーダーが少ないほうが良いという認識が通説でした。更に戦後、強烈な個性を持った多くの創業社長によって、強いリーダーシップを源泉に急成長を遂げた大企業が多数存在したことも、その認識を強化する要因になりました。
しかし現在は
- 価値観の多様化
- サービスのコモディディ化
- グローバル化
などの要因で、特定のフォーマルリーダーだけではアイデアの質も量も、更にその創出スピードも歯が立たなくなってきています。
そこでポジションのあるフォーマルリーダーシップを発揮できる社員だけが知恵を出すよりも、出来るだけ多くのインフォーマルリーダーシップを発揮できる社員が率先して現場を駆け回り、自律的に機能する組織が求められるようになったのです。
インフォーマルリーダーシップを発揮する為の条件
勿論、組織である以上、誰しもが好き勝手にインフォーマルリーダーシップを発揮しても良いということではありません。インフォーマルリーダーシップを発揮する際の前提条件として不可欠なものは「組織目標(ミッション)」の共有です。逆に、組織目標の組織内一致度を高められていれば、新入社員であっても積極的にインフォーマルリーダーシップを発揮してもらうことが可能になります。
インフォーマルリーダーシップが機能している場合の組織イメージ
業組織を図示する際、まず思い浮かぶのは三角形の組織ヒエラルキーです。しかし、インフォーマルリーダーシップを発揮する際、場合によってはその業務オーダーがヒエラルキーの下から上に向かう(時として、組織ミッション達成の為、一般職層の社員が中間管理職層の上司に業務依頼をする)事実を容認することになります。基本的な組織ヒエラルキーはトップダウンで業務オーダーが流れることを前提にしている為、インフォーマルリーダーシップを活発に促進したい組織には少しそぐわない印象を与えます。
そこで組織全体で活発にインフォーマルリーダーシップが行使されるよう、上の図のように解釈を変更します。
組織目標の合意形成が図れているという前提を基に、インフォーマルリーダーシップを発揮する自分を組織の真ん中に据えます。そして利害関係者を立場関係なく、自身の周囲に配置します。つまり、「組織目標達成の為、周囲の利害関係者をうまく活用する」という認識に組織の捉え方を変更するということです。管理者にしても、最終的なゴール(組織目標)が促進されるという判断であれば、立場関係なく、部下からの要請も受け入れやすくなります。
何よりも組織図の解釈に変化を加える最大の趣旨は、肩書を持たない一般職層が存分にインフォーマルリーダーシップを発揮できるような土壌づくりの推進です。管理者になるタイミングで初めてリーダーシップを醸成するのではなく、入社当時からその素地を磨く取り組みを継続することが、中長期的に強い組織の基盤を創る上で不可欠であると言えます。