第10回 OJTを機能させるためには?
第7回~第9回にわたってoff-JTのデザインや研修の企画について考察していきました。
第10回は、OJT(On The Job Training)について検討を進めていきたいと思います。
(OJTとは、実際の職務現場において、業務を通して上司や先輩社員が
部下の指導を行う育成手法のこと)
人材育成の世界では、『70:20:10の法則』というものがあります。
これは、高い成果を残すリーダーに「どのようにリーダーシップ能力を身につけたか?」という調査を米国のリーダーシップ研究の調査機関ロミンガー社が行い、そこから得られた結果を要約したものです。
『70:20:10の法則』によれば、能力開発にあたっては、70%が経験、20%が薫陶、10%が研修に依るもの、ということが明らかにされています。
ここまで取り扱ったoff-JTは10%、一方、現場での経験や上長や先輩社員からの薫陶(指導やフィードバック)というOJTにまつわる要素が合計90%となり、人材育成におけるOJTの重要性について改めて気づかされます。
『70:20:10の法則』を見るまでもなく、「OJTの重要性はよく分かっているよ。」という人材育成企画担当者の方も多いかと思いますが、では、OJTは自社で効果的に機能しているでしょうか?と問われると心許ない方も多いのではないでしょうか。
OJTのあるべき姿と現状
OJTのあるべき姿として、どのような状態をイメージされますか?
『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。』
ご存知、山本五十六元帥の名言です。
各現場においてこのような指導がなされている状態は、OJTのあるべき姿と言ってもいいでしょう。
一方で、現状のOJTはいかがでしょうか。
ある人材育成企画担当者にお伺いしたところ
「当社のOJTは、On The Job Trainingではなく、
O:おい
J:自分で考えて
T:適当にやっておけ
ですよ。」
と、自嘲気味に話されました。
OJTの現状として、これに近い状態の企業も多いのではないでしょうか。
OJTがうまくいかない理由と対応策
一体なぜOJTが機能しないのでしょうか。
産業能率大学が行った調査を参考に見てみましょう。
どの理由も、現場でありがちな理由ですね。
この中でも上位3つに焦点を絞ってみてみましょう。
上位3つの問題は、1.『時間の問題』、2.『能力の問題』、3.『意識の問題』と捉えることができるかと思います。
それぞれ、問題を生じさせている原因があり、原因に応じた打ち手を検討する必要があります。
(この辺りのポイントは、連載1回目~2回目でご紹介した『HPIモデル』の考え方をご参照下さい。)
1.『時間の問題』の原因
(a)部署内の業務配分が適切に行われておらず、OJT指導者が業務超過になっている。
(b)OJT指導者が業務の優先順位が適切につけられていない。
(c)業務遂行や部下育成の能力が不足しており、指導育成の時間が確保できない。
2.『能力の問題』の原因
(d)OJT指導者が部下/後輩育成の為の知識やスキルを習得していない。
3.『意識の問題』の原因
(e)OJT指導者が部下/後輩育成が自らの仕事という役割認識をもっていない。
OJTを機能させるためには、ここで挙げたように自組織のOJTが機能していない原因を正しく見極めることが何よりのポイントです。
OJTを機能させるために、OJT指導者に研修を受けさせるという解決策をとることも多いかと思いますが、いくら研修で指導スキルを学習したとしても、OJT指導者が指導時間がとれなければ全く効果はありません。
「OJT指導者が指導時間がとれていない」ということが原因なのであれば部署の業務フローを見直す、或いは、OJT指導者のアサインメントを変更する等の対策が打たれなければ、問題は解決しません。
OJTを継続的に機能させる”企画力”
「研修を受けて部下指導って大事だなと改めて思いました。
だから、最初はけっこう熱心に指導もやってたんです。
でもそのうち、おざなりになってしまって…今ではほとんどできていないですね。」
OJT指導者からこのような声を聴くことも多くあります。
OJTが継続しないという問題についても、基本的には原因を分析し、手を打っていく必要があります。
原因分析は先述した通りですが、手を打つ対策は「企画立て」と言えます。企画は、
- 一人で考える場合は、今まで行った施策・思いつく施策を羅列し、最適解はないか、組み合わせてできないか検討する
- 複数で考える場合は、自由に発言・・・こんなの良いかも、面白いかも・・・とアイデアフラッシュで出せるだけ出し、グルーピング、組合せなど行い、最適解を検討する
という方法があります。
1. 2. ともに、OJT指導者強化など育成に関する検討の多くは「集合研修(off-JT)」の枠組みだけで考えがちですが、視野を広げ様々な観点・手法を考える事が重要です。視野拡張を意識する方法として、取組分野ごとに施策を列挙する、あるいは列挙した施策を分野毎にまとめ、全方位で施策検討されているか確認します。
OJT・off-JT以外の取組分野の一例を挙げます。
- 制度・指針の設計分野・・・社内の制度設計や育成指針など、そのものの根幹を為すもの。意外とこの根幹が無い、若しくは曖昧になっている事も多く、結果、打ち手が場当たり的・単発的になってしまう。
- 組織への浸透・活性分野・・・設計した制度・指針を組織全体へと浸透させ、組織間の方針統一・全社員の意識統一・実行への活性を図るもの。方法として、トップダウン=トップからのメッセージ、ボトムアップ=組織横断のワーキンググループの発足、があり、両方からのアプローチが望ましい。この浸透度合いによって、実行のし易さ・し辛さに差が出るため、施策成果が左右されやすいといえる。
- 促進するツール・仕組み分野・・・主に、浸透・活性するために、図解・アニメーション・映像・Webコンテンツ・カードなど、口伝による聴覚理解以外の手法(多くは視覚理解)を用いるもの。また、実行ルール化など継続への仕組みも検討できる。ツール類は「作る事(手段)」が目的とならないよう「何を・誰に」を常に意識し、対象に沿った効果的なツール・切り口・見せ方を検討する事がポイントである。
OJT継続化への取組事例
原因も対策も多岐に渡りますが、ここでは先述のOJT/off-JT以外の取組分野に沿って、いくつかの取組み事例をご紹介しておきます。
制度・指針の設計分野
- 目標管理制度に組み込み、OJT指導者の評価項目の中でOJT業務の比率を高める。
- 評価制度に組み込み、育成成果(育成人員数・能力成長度・対象者の業績伸長度等)の評価比率を高める。
- OJT指導者そのもののメンター制度を設ける。
組織への浸透・活性分野
- OJT計画、指導者の役割を明確にしたのち、管理者への浸透会議、メンバーへの浸透ワーキングを立ち上げる。
- これから必要とする人物像や求める行動と、そこに至らせる育成施策までをイラスト化し、卓上カレンダーや吊り下げ標語などで啓蒙する。
- 社内SNSを活用し、社内に向けたOJT指導者からの育成状況・取組み等、育成日記を発信する。
促進するツール・仕組み分野
- 権限者同席のOJT指導者定例会議を定期開催。OJTの進捗状況を部署内でOJT指導者が報告する。
- OJT指導者強化ミーティングを定期開催。
月に1度集まり、指導・育成上の成功事例や課題を共有しあう。 - 社内SNSを活用し、OJT指導者同士が相談しあう。
- OJTの取組み計画をフォーマット化し、イントラネット上で共有する。
- 部下(被指導者)の声を収集し、OJT指導者にフィードバックをする。
様々な取組み例がありますが、放置すればOJTは機能しない、研修だけやってもOJTは継続されない、ということを念頭に、施策を練ってみてください。