インバスケット演習とは?人材アセスメントと人材育成から有用性を考察
1.人材アセスメントとは
人材マネジメントをより客観的に行うためのインバスケット演習をご存知でしょうか。
インバスケット演習を理解するために、はじめに人材アセスメントの概念を解説します。
人材アセスメントとは、人材や組織の特性を測定し、その特徴を把握して、将来の職務遂行能力を予見することで、人材マネジメントに役立てようとする考え方です。
人材アセスメントは採用選考、異動・配置、昇進昇格選考、昇給・賞与、能力開発の分野で幅広く活用されています。もし、人材アセスメントがうまく機能していなければ、入社後の早期離職、管理職登用後に期待する成果を発揮できない、評価に対する不公平感などが起きます。
あくまで、将来に対する予見の精度を高めるためにも人材アセスメントは極めて有効なのです。
人材アセスメントは科学的なアプローチによる再現性がなくてはなりません。そのために、統計解析を用いて普遍的な法則を見つけ出そうと努めることが重要です。普遍的な法則を見つけるために「信頼性」と「妥当性」という概念を用いて、精度を高めていきます。
信頼性とは、能力、性格などの個人差の測定尺度の安定性や一貫性を意味します。つまり、何度も同じ人材アセスメントを実施した場合においても、同じ結果が得られるか否かです。統計解析において、信頼性に関する指標を信頼性係数と呼びます。信頼性係数は0から1.0までの数値で表すことができ、1.0に近いほど信頼性が高い尺度と判断されます。
信頼性係数が0.7以上あれば、信頼性の高い人材アセスメントツールだとされています。
もう一つの概念は妥当性という概念です。用いられる人材アセスメントツールが適用場面や目的にあったものであるかどうかという点です。妥当性には「基準関連妥当性」「内容的妥当性」「構成概念妥当性」「表面的妥当性」という4つのポイントがあります。これから管理職登用をするための評価をしようとする際に、これまでのプレイヤーとしての評価だけを活用してしまうと管理職になった場合に組織マネジメントがうまくできず、成果を出すために自分がプレイヤーとして前線で働き続けてしまい、結果として部下が育たないという事象も発生します。
人材アセスメントの代表例をご紹介します。
- 筆記試験:いわゆる知識テストです。期待する成果を出すために必要な知識が備わっているかを測定する手法です。必要な知識があれば成果を出せるという前提に立っており、場合によっては知っていることと、できていることの違いが生まれる可能性があります。
- 適性検査:職務適正を見極めるために、思考の深層にある資質や志向性などを評価する手法です。
- 360度評価:被評価者を中心に上司・同僚・部下からの360度から評価される手法です。評価される項目は、組織で求められる行動を設問として設計されることが多く、多面評価とも呼ばれています。
- コンピテンシー面接:いわゆる面接です。これまでの成果行動事例を具体的に確認しながら、どのように成果を出してきたか、その行動の論理性や整合性からどのような思考で行動化を図ったのか、口述することにより考えていることを表出させて評価する手法です。自分で考えて行動できるということは、同じような状況においても同じような行動が取れるという前提に立っています。
- グループディスカッション:グループ交流の様子から対人行動の傾向やリーダーシップの発揮などを評価する手法です。
- インバスケット演習:限られた時間の中で、職場で起こりがちな内容を架空のケースに仕立て、どのように案件を処理していくか評価します。案件処理の方法や優先順位の付け方を評価する手法です。後ほど詳しくご説明します。
- アセスメントセンター方式:アセッサーと呼ばれる評価の専門家が、さまざまな手法を組み合わせながら総合的に人材を評価し、アセッサー同士の評価の目線をすり合わせることで、より客観的な評価をするための手法です。
2.インバスケット演習の歴史的背景
それでは、人材アセスメント手法から、今回はインバスケット演習を解説します。
インバスケットとは未処理箱を意味します。言い換えると未完了のタスクの総称です。限られた時間の中で未完了のタスクを精度高くどのように処理していくか、問題解決に関する総合的な能力を評価する演習方法です。
なぜ、このような人材アセスメント演習が生まれたのでしょうか。
インバスケット演習は、米国の秘密情報員の適正評価に用いられたことがはじまりとされており、日本においても管理職登用などの客観的な評価が求められる人材マネジメントにおいて、非常に有効的な手法であり、日本では大企業のみならず中小企業や官公庁など、多くの企業や団体にインバスケット演習が導入されています。
3.インバスケット演習で何を評価しているのか
一般的にインバスケット演習の活用場面としては、管理職登用時の昇格試験で活用されることが多く、一般社員が管理職に昇進した場合に、どのような基準でタスク処理の優先順位をつけ、どのように対処していくかを架空のケースを用いて模擬的に管理職になった状況をつくり評価していきます。
タスク処理の優先順位のつけ方は、「重要度」と「緊急度」の2軸になり、大きく3つの能力「問題発見能力」「問題解決能力」「対人関係構築力」を評価します。
問題発見能力とは、職場でいま何が起きているか、組織に対する影響度合いを考える力です。問題解決能力とは、限られた時間のなかでどのように解決していくか方針を出すことです。対人関係構築力とは、誰をどのように巻き込み指示を出していきながら解決に導くか、という力を総合的に評価します。
4.インバスケット演習では具体的にどのようなことを行うか
インバスケット演習はあらゆる人材マネジメントを想定した設計がありますが、今回は管理職登用時のインバスケット演習を例に説明します。
ご自身が管理職になった想定で未処理箱に入った数多くの案件を限られた時間の中で処理していきます。未処理箱の中には、顧客からの苦情や改善要望・急な社外会議出席の要請・売上進捗状況を突発的に上司から求められる・社員からの不平不満・他部署から自部署への協力要請・社員同士のコミュニケーショントラブル・上司からの業務指示の伝達・通常業務の前倒し等、管理職として数多くの業務を実際のメールや指示書の内容に従いながら案件を処理していきます。この案件の優先順位づけと時間の概念が入ってきます。
皆様のお仕事を現実的に想像した場合、10:00から社内会議に入る直前に顧客からの苦情の連絡が入った際、会議終了後に対処するか、上司に断りを入れて社内会議には出ず苦情を対処するか、など現実的な検討がされると思います。そして、その苦情の対応中にもさまざまな関連メールを受信するので、誰にどのような指示を出して解決に向かうのか考えていく必要があります。
このように未処理箱に入った順番ではなく重要度と緊急度を考えながら、組織に対する影響度の大きいタスクを刻一刻と迫る時間の中で判断し行なっていきます。
優秀なプレイヤーが優秀な管理職として活躍していくためには、組織をどうマネジメントしていくかが必要になります。それを架空のケースを用いて模擬的に管理職経験を行うことで、役割発揮の可能性を評価していきます。言い換えると、管理職に必要な力を基準にして現在地がどこにあるか、どこが啓発ポイントかを見極めることができます。
5.インバスケット演習で不充足と感じた能力は個別に能力開発する
本人の資質や適性を見極める人材アセスメントは、職務に対する適合度合いを評価するものになり、適合度合いだけでは能力開発ができません。
一方、インバスケット演習が優れている点は、能力開発が可能な点にあります。例えば、問題発見能力が不足している場合には仮説構築力やクリティカルシンキングなどの教育を行い、問題解決能力が不足している場合にはロジカルシンキングや問題解決のフレームワークに関する教育を行う、対人関係構築力が不足している場合にはアサーティブコミュニケーションやコーチングに関する教育を行うことで能力開発が期待できます。従いまして、管理職登用時の2,3年前にインバスケット演習を行い、管理職登用の前に管理職として期待役割を発揮するための能力開発を行うことが理想です。
6.まとめ
人材マネジメントをより科学的に行うために、人材アセスメントは必要不可欠だと言えます。ただし、人材アセスメントは信頼性と妥当性が重要なため、目的にあった人材アセスメントツールを使用しなければ意味がありません。そして、人材アセスメントから得られた評価結果をもとに、能力開発をはじめとする人材マネジジメントに活用することが最も重要です。ぜひ、人材アセスメントの活用状況を見直されてみてはいかがでしょうか。