従業員エンゲージメント調査とは?実施方法や注意点を解説
従業員エンゲージメント調査は、従業員が企業や組織にどれだけ共感・信頼を持ち、積極的に貢献しようとしているかを把握するための調査です。この調査では、働く意欲や組織への愛着、業務に対する満足度など、従業員の心理状態を多面的に可視化します。
日本では、働き方改革や人材不足が進む中、従業員のモチベーション向上や定着率改善が重要な課題となっています。エンゲージメント調査を実施することで、従業員の声を経営に反映させ、より働きやすい環境づくりを進めることが可能です。
本記事では、従業員エンゲージメント調査の概要、実施方法、注意点について解説し、効果的な組織改善のヒントをお届けします。
従業員エンゲージメント調査とは
従業員エンゲージメント調査は、従業員のエンゲージメントを測定するための調査のことです。
調査を実施することで、従業員が会社や組織、仕事に対して抱いている感情を可視化できます。
従業員満足度との違い
従業員エンゲージメントと従業員満足度はしばしば混同されがちですが、明確に異なる概念です。以下にその違いを整理します。
項目 | 従業員エンゲージメント | 従業員満足度 |
---|---|---|
定義 | 組織の目標達成に向けた従業員の積極的な貢献意欲 | 従業員が職場環境や待遇に満足している状態 |
測定対象 | 企業への共感、主体的行動、ビジョンへの共鳴 | 福利厚生、職場環境、給与、労働時間 |
結果 | 生産性向上、離職率低下、組織力向上 | 離職率低下、業務ストレス軽減 |
アプローチ | 組織全体のコミュニケーションやビジョン共有 | 労働環境や待遇の改善 |
エンゲージメント調査の重要性
従業員満足度が高い職場でも、エンゲージメントが低ければ以下のような課題が発生する可能性があります。
- 従業員が「与えられた仕事をこなすだけ」になり、業務改善やイノベーションが停滞する。
- 長期的には従業員の組織貢献意欲が薄れ、離職率が高まる。
エンゲージメント調査では、以下の設問を通じて組織の現状を多角的に把握します。
- ビジョンの共有:「会社の目標に共感しているか?」
- 業務満足度:「自身の業務にやりがいを感じているか?」
- 人間関係:「チームや上司との関係に満足しているか?」
- 成長機会:「スキルが身につき、キャリアを積むことができると感じるか?」
これらの設問を基に、コミュニケーションや評価制度、働きがいなどの改善ポイントを洗い出すことが可能です。
従業員エンゲージメント調査の目的
従業員エンゲージメント調査では特に、課題の特定や施策の効果検証といった要素を重視します。
以下に、従業員エンゲージメント調査の主な目的を挙げてご説明します。
課題や問題の可視化
従業員を取り巻く課題・問題を可視化することが、従業員エンゲージメント調査の大きな目的の一つです。
組織全体の課題を把握
従業員エンゲージメント調査は、組織内に潜む課題や従業員が抱える不満・悩みを可視化するための重要な手段となります。
たとえば、次のようなポイントを明確にできます。
- 仕事に対する意欲や熱意のレベル
- 人間関係やチームワークの課題
- 成長の機会やキャリア支援不足支援不足
- 組織へのコミットメント
これらの要素が、調査を通じて数値化・可視化されることで、経営層や管理職が具体的な改善施策を検討しやすくなります。
問題点の早期発見
未然に問題を防ぐためには、早期発見が不可欠です。
たとえば、従業員の離職意向やモチベーション低下の兆候を調査データから読み取ることで、離職を防ぐための施策を迅速に講じることができます。
たとえば、「従業員の70%が業務負荷に不満を感じている」という結果が出た場合、タスクの分担見直しやリソース追加といった対策が必要なことがわかります。
部門ごとの比較・分析
調査結果を部門ごとに分析することで、特定の部署やチームに偏った課題を浮き彫りにできます。
■部署やチームごとの課題例:
- A部署は高いエンゲージメントを維持しているが、B部署は低い
- 管理職と一般従業員で認識に乖離がある
このようなデータを活用することで、より的確なアプローチが可能になります。
各施策の効果検証
すでに従業員エンゲージメント向上のために取り組んでいる課題があれば、その効果を検証することも調査の目的となり得ます。
施策の実施後の評価
従業員エンゲージメント調査は、過去に導入した施策や改善活動がどの程度、効果を発揮しているかを確認するためにも活用できます。
■検証できる施策例:
- 研修プログラムの効果
- 新しい評価制度の浸透度
- リモートワーク導入後の満足度
これらをデータで確認し、効果が不十分であれば再調整を行うことが重要です。
PDCAサイクルの確立
従業員エンゲージメント調査は「計画(Plan)→ 実行(Do)→ 評価(Check)→ 改善(Act)」というPDCAサイクルの要となります。
Plan:調査結果を基に改善策を立案
Do:改善策を実行
Check:再度調査を行い、効果を評価
Act:課題に応じて施策を再調整
このサイクルを回し続けることで、組織のエンゲージメントを持続的に向上させることができます。
経営層へのフィードバック
調査結果を経営層へフィードバックすることで、経営戦略や方針決定に役立てることができます。
従業員エンゲージメント調査のデータを経営指標として活用することで、組織全体の改善に対する取り組みの質が向上します。
従業員エンゲージメント調査のメリット
従業員エンゲージメント調査を適切に実施することで、企業には多くのメリットがもたらされます。
以下で、代表的なメリットについて解説します。
従業員のモチベーション向上
従業員エンゲージメント調査を実施すると、従業員の声を組織改善に反映させる機会につながります。
自身の意見や不安が経営陣に届き、解決に向けたアクションが取られることで、従業員は「自分たちの声が大切にされている」と感じ、モチベーションが向上します。
離職率の低下
エンゲージメントが低い組織では、従業員が不満や悩みを抱えやすく、離職率が高まる傾向があります。調査を通じて離職リスクのある従業員の心理や不満要因を早期に発見し、適切な対応策を講じることで、離職率の低下が期待できます。
生産性の向上
エンゲージメントの高い従業員は、自らの業務に積極的に取り組み、組織の目標達成に向けて高いパフォーマンスを発揮します。
また、調査で業務上の障害や改善すべきポイントが明らかになれば、適切なリソースの配分やサポートが可能になります。
組織文化の改善
従業員エンゲージメント調査は、組織文化の健全性を評価し、問題点を明らかにする有効な手段です。組織の価値観やビジョンが従業員に適切に伝わっているか、経営層と現場の間に認識のズレがないかを把握し、改善することができます。
人材育成の効果測定
人材育成やトレーニングプログラムが従業員のエンゲージメント向上に寄与しているかを調査することで、育成施策の効果を定量的に把握できます。
改善が必要なポイントを明確にし、効果的な人材育成施策を構築することが可能です。
経営戦略への反映
エンゲージメント調査は、経営層が組織の現状や課題を正確に把握し、戦略的な意思決定を行うためにも重要です。
組織全体のエンゲージメントの傾向や課題が可視化されることで、経営判断がより適切になるでしょう。
従業員エンゲージメント調査の種類
従業員エンゲージメント調査には、調査の目的や頻度に応じていくつかの手法があります。代表的なものとして「パルスサーベイ」と「センサス」が挙げられます。それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることが重要です。
パルスサーベイ(Pulse Survey)
パルスサーベイは、短期間に繰り返し調査を行う手法です。調査頻度が高く、組織の「健康状態」を定期的にモニタリングできます。特に新しい施策の導入直後や、変化の激しい時期に効果的です。
ただし、頻度が高すぎると「調査疲れ」を引き起こす可能性があるため、質問内容を工夫し、飽きが来ないよう配慮が必要です。
調査頻度:毎週・隔週・毎月など高頻度
設問数:少数(5~15問程度)
対象:全社員または特定の部署
目的:短期的な変化やトレンドを把握し、即座に対応する
パルスサーベイのメリット
- リアルタイムで課題を把握:従業員の声を素早く収集し、迅速に対応可能。
- 従業員の信頼向上:頻繁な調査を通じて、従業員の意見が重視されていることを示せる。
- 改善スピードの向上:変化に応じた素早い改善施策を実行できる。
センサス(Census)
センサスは、年に1回または数回、全社員を対象に実施する包括的な調査です。幅広い観点からエンゲージメントや職場環境に関する意見を収集し、中長期的な改善に活用します。
ただし、質問が多すぎると回答負担が大きくなり、回答率が低下する可能性があるため、設問の精査が重要です。
調査頻度:年1回または数回
設問数:多数(50~100問程度)
対象:全社員
目的:組織全体の包括的な課題や傾向を把握し、中長期的な改善策を立案
センサスのメリット
- 組織全体の現状を網羅的に把握:長期的なトレンドや組織の強み・弱みを浮き彫りにできる。
- データの蓄積:過去との比較が可能なため、組織の変化を追跡できる。
- 戦略的な意思決定に貢献:経営戦略に活用できるデータを収集できる。
従業員エンゲージメント調査の実施方法
従業員エンゲージメント調査は、自社で実施する場合と外部専門サービスを利用する場合に分けられます。それぞれの特徴を理解し、自社のニーズに合った方法を選びましょう。
自社で実施する
自社で従業員エンゲージメント調査を行う場合、社内リソースやツールを活用して、調査設計・実施・分析まで一貫して社内で対応します。
自社実施のメリット
- コスト削減:外部委託に比べて低コストで実施できる。
- 柔軟性:自社の状況や課題に応じた調査項目を設定できる。
- 迅速な対応:調査結果をすぐに活用し、改善策を立案・実行できる。
自社実施のデメリット
- リソース不足:専門知識が必要で、準備や分析に手間がかかる。
- バイアスのリスク:内部担当者による調査では、結果が偏る可能性がある。
- 専門性の限界:分析結果の解釈や施策立案が十分に行えない場合がある。
外部の専門サービスを利用・委託する
外部の専門サービスに従業員エンゲージメント調査を委託する方法では、調査設計からデータ収集、分析、改善提案まで、専門知識を持つ企業がサポートしてくれます。
対象:全社員または特定部署
調査内容:設問設計、実施、分析、改善提案
コスト:自社実施に比べてコストがかかることが多い
外部委託のメリット
- 専門的な調査設計:プロの知見を活用し、精度の高い調査が可能。
- 客観性の確保:外部による実施で、バイアスのない客観的なデータ収集が可能。
- 高度な分析:統計手法やベンチマークデータを活用し、詳細なレポートが提供される。
外部委託のデメリット
- コストが高い:自社実施に比べて費用がかさむ。
- 柔軟性の制限:調査設計やスケジュールが外部企業に依存する。
- 機密性のリスク:データ管理が適切に行われるか確認が必要。
従業員エンゲージメント調査を行う際の注意点
従業員エンゲージメント調査を効果的に実施し、信頼性の高い結果を得るためには、いくつかの重要なポイントに留意する必要があります。
従業員に対し調査の目的を明確に共有する
まずは、調査の実施目的を従業員へ共有し、理解を得る必要があります。
目的共有の重要性
調査の実施にあたり、「なぜこの調査を行うのか?」という目的を従業員にしっかり伝えることが重要です。目的が明確でないと、以下のリスクが生じる可能性があります。
- 回答の信憑性が低下する
- 回答率が下がる
- 調査に対する不信感が生じる
目的を共有する際のポイント
- 透明性の確保:調査の目的や期待される成果、調査後の対応を具体的に伝える。
- プライバシーの保護:回答が匿名で処理され、個人が特定されないことを保証する。
- 改善への期待感を強調:調査が実際の組織改善につながることを従業員に理解してもらう。
目的共有の実施例
- キックオフミーティング:調査開始前に全体会議を行い、調査の目的と重要性を伝える。
- 社内メールやイントラネットの活用:調査の目的や実施スケジュールを共有する。
- FAQの提供:従業員が感じる疑問点や懸念に対する回答をまとめた資料を配布する。
従業員に負担がかからないよう配慮する
調査が従業員にとって負担となる場合、回答率が低下し、正確なデータを収集することが難しくなります。本業に影響を与えないためにも、以下の点に注意しましょう。
- 調査の頻度が多すぎる
- 設問が多すぎる
- 回答に時間がかかりすぎる
負担を軽減するためのポイント
設問数を適切に抑える:10~15分で回答可能なシンプルな設問設計。
調査の頻度を調整する:頻度の高い調査では短時間で回答可能な形式を採用する。
回答しやすい形式の採用:スマートフォンやタブレットでも回答可能なシステムを活用する。
配慮の実施例
- 回答時間の確保:業務時間内に回答できる時間を設定する。
- 匿名性の保証:個人が特定されない形式で調査を実施する。
- 自動保存機能の活用:途中保存が可能で、回答を中断・再開できる設計。
調査後は必ず結果を共有する
調査後、結果を従業員へ共有することは非常に重要です。結果が共有されなかった場合、従業員の信頼を損ねるリスクがあります。- 従業員の信頼が損なわれる
- 次回以降の調査で回答率が低下する
- 改善への意欲が低下する
結果を共有する際のポイント
迅速なフィードバック:調査終了後、できる限り早く結果を公開する。
視覚的なわかりやすさ:グラフやチャートを活用して、誰でも理解しやすい形式で伝える。
改善策の提示:結果に基づき具体的な改善アクションを共有する。
結果共有の実施例
- 全体報告会:調査結果の概要を全従業員に説明する場を設ける。
- レポート配布:結果をまとめたレポートを従業員全員が閲覧できる形で提供する。
- 進捗報告:改善策がどのように実行されているか、定期的に報告する。
まとめ
従業員エンゲージメント調査は、企業が従業員の組織に対する関与度や働く意欲を把握し、組織文化や業務環境を改善するための重要な取り組みです。
この調査は、従業員の心理状態や業務満足度、組織への愛着心、キャリア成長の機会など、複数の観点から従業員の現状を可視化します。適切な調査の実施を通じて、従業員一人ひとりが組織の目標に共感し、自らの役割に誇りを持って働ける環境を整えることが期待できるでしょう。
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