従業員満足度と従業員エンゲージメント
~高めるメリットと方法は?
人手不足が深刻化する日本。従業員もさまざまな背景や価値観を持っていることから、モチベーションが高い状態を保ち、パフォーマンス向上させることが企業成長にとって重要です。
従業員の意欲を測る指標として、従業員満足度と従業員エンゲージメントの2つがあります。これらは似て非なる物であることから、メリットや高める手法にも違いが生じます。
この記事では、従業員満足度と従業員エンゲージメントについて、その概要やメリット・高める手法を詳しく説明します。ぜひ参考にしてください。
従業員の意欲を測る2つの指標
従業員の意欲を測る2つの指標として、従業員満足度と従業員エンゲージメントがあります。まずは2つの基礎知識を確認しましょう。
従業員満足度(ES)とは?
従業員満足度は従業員がどのくらい会社の労働条件に満足しているかを示す指標です。「Employee Satisfaction」から、「ES」とも略されます。具体的な労働条件としては、給与面や福利厚生、ワークライフバランス、職場での人間関係などが挙げられます。 従業員満足度は言わば居心地の良さであり、高くなるほど、離職率の低下などの効果が期待できます。
従業員エンゲージメントとは?
従業員エンゲージメントとは、会社のビジョンやミッションに従業員が共感し、会社に貢献したいという意欲を意味します。
人事財務の支援企業であるウィリス・タワーズワトソン・パブリック・リミテッド・カンパニーによると、従業員エンゲージメントは3つの要素で構成されます。
- 理解度:企業の方向性やビジョンを理解し支持する態度
- 帰属意識:組織や共に働く従業員に対して誇りや愛着を持つ度合い
- 行動意欲:企業の成功に向け自発的に貢献しようとする意欲
つまり、従業員エンゲージメントが高い状態とは、企業がめざす姿や業務に対して、従業員の熱意・貢献意欲がある状態と言えます。
従業員満足度と従業員エンゲージメントの違い
従業員満足度が高い場合、従業員が会社への貢献意欲を持つことにつながりやすいことから、同様に従業員エンゲージメントも高くなっていることが多い傾向にあります。しかし、両者は本来異なるものです。
こちらの見出しでは従業員満足度と従業員エンゲージメントについて表形式で紹介します。
従業員満足度 | 従業員エンゲージメント | |
---|---|---|
指標からわかること | 従業員の満足度 | 従業員と会社の関係性 |
向上に取り組む主体 | 上級職 | 従業員 |
調査方法 | 従業員満足度調査 | エンゲージメントサーベイ |
会社と従業員の関係性 | 会社から従業員へ与える関係 | 会社と従業員が共に高めあう関係 |
ではそれぞれの具体的な違いを見ていきましょう。
まずは向上に取り組む主体です。従業員満足度は経営層や人事部など、労働条件を決定する決定権を持つ人が向上に取り組みます。一方、従業員エンゲージメントは各職場のマネージャーやメンバーがそれぞれ改善に取り組むことができます。
次に調査方法です。どちらも従業員に対してアンケートを実施することで可視化することができます。従業員満足度調査では、職場の環境や人間関係、ハラスメントの有無など、職場や仕事の満足度を聞き出す設問となります。一方、従業員エンゲージメントサーベイでは、企業理念や業務に対して誇りを持っているかなど、従業員のマインド面に関する設問が多くなります。
会社と従業員の関係性を見てみましょう。従業員満足度は、会社が与える労働条件などに対して、従業員が評価するという構造となっています。一方、従業員エンゲージメントは、会社と従業員の理念の一致や働きがいなど、共に主体性を持ち高め合う関係となります。
従業員満足度や従業員エンゲージメントを高めるメリット
従業員満足度や従業員エンゲージメントを高めるメリットには、業績向上のほか、人材定着やCS向上など様々なものがあります。詳しく見ていきましょう。
従業員満足度を高めるメリット
業績の向上につながる
従業員満足度が高い職場では、従業員同士のコミュニケーションが促進され、業務の連携が促進されます。結果として従業員が積極的に仕事に取り組むようになり、既存事業のブラッシュアップや、イノベーションが発生しやすくなり、業績向上が期待できます。
人材が定着しやすい
従業員満足度を上昇させると、離職防止の効果が期待できます。
労働時間は1日の中でも大きな割合を占めます。もし職場環境の居心地が悪ければ、離職したいと思うのは当然の結果でしょう。また、従業員満足度が高い企業は人材採用もしやすくなる傾向があります。
顧客満足度(Customer Satisfaction・CS)の向上につながる
従業員満足度が高い職場では、従業員が自社の商品・サービスの向上に努めるようになります。結果として、商品・サービスが良くなり顧客満足度も向上します。
従業員エンゲージメントを高めるメリット
生産性の向上につながる
従業員エンゲージメントが高いと、従業員が組織の成功のため自発的に行動するようになります。それにより、業務の効率化が図られやすくなり、生産性が向上します。
優秀な人材を確保しやすい
従業員が働きがいを感じ、主体性を発揮できている会社にできれば、顧客や求職者も魅力を感じるようになります。採用力が強化され、優秀な人材が集まる好循環が発生しやすくなります。
イノベーションが起こりやすい
エンゲージメントが高いと従業員が自発的にさまざまな検討を行うモチベーションができるようになります。結果として、既存業務の改善や新規事業開発などのイノベーションが起こりやすくなります。
従業員満足度を高めるには?
それぞれの違いがわかったところで、従業員満足度を高めるおすすめの改善策を見ていきましょう。
現状の従業員満足度を調査する方法
まずは、現状を正しく認識するところからはじめましょう。従業員に対して、アンケート調査を行います。
仕事に対する満足度は、動機付け要因と衛生的要因の2つ の観点から質問項目を設定することをおすすめします。
動機付け要因とは、仕事に対する満足度を向上させる要因のことで、仕事に対するやりがいや達成感、責任や昇進などを指します。具体的な質問例としては、「現在の仕事はやりがいがあるか」「自分の仕事に対して適正な評価が得られていると感じるか」などが挙げられます。
衛生的要因とは、不満を生じさせる要因のことで、給料や労働条件、待遇、職場の雰囲気などを指します。これらが満たされていないと、従業員は職場への不満を持ってしまいます。具体的な質問例としては、「給与は業務の内容や成果に対して相応だと感じるか」「労働時間は適切だと感じるか」などが質問例として挙げられます。
動機づけ要因と衛生的要因 はどちらかがあれば良いというわけではなく、どちらも同時に満たされている必要があります。
こういったアンケートを集計し、回答者が日ごろの不満を言語化できるようにし、現状の会社の状態を認識しましょう。
従業員満足度を高める主な施策
適正な人事評価制度の導入
企業や上司、部下から適正に評価されることは、個人にとってやりがいを生み出す原動力となります。そのことから、評価基準が公正な基準となっているかを見直してみましょう。従業員の評価は定性的・定量的どちらの要素も絡むことから公平性を保つのが難しいものではありますが、なるべく数値目標など定量化した内容に落とし込み、達成の可否が分かりやすいようにしましょう。また、年度初めに目標を面談などで設定することで、従業員も納得する評価をしやすくなります。
適材適所の配置
人材配置を見直し適正化するのも重要です。日本の企業では、とりあえず人材を採用してから、職務を割り当てるメンバーシップ型雇用が一般的です。しかし、人によっては適正に合わない職場や仕事内容が割り当てられる場合もあり、不満を抱く可能性もあります。
そういったことから、ジョブ型雇用を採用するのもよいでしょう。ジョブ型雇用とは、仕事内容にあったスキルや経験を限定し、人材を採用することです。即戦力が期待できるほか、入社後のミスマッチが発生しづらいメリットがあります。
福利厚生の充実
給与などの待遇面は従業員満足度の大きな要素です。福利厚生は給与とは別に従業員や家族に提供するサービスのことです。例えば、厚生年金や雇用保険などの法定福利厚生のほか、企業が任意で導入する法定外福利厚生が充実していれば、満足度は上がりやすいでしょう。
法定外福利厚生には、以下のような例が挙げられます。取り組めるものはないか見てみましょう。
- 財形貯蓄
- 従業員持ち株制度
- 社員食堂・食事手当
- 健康診断・人間ドックなどの費用補助
- 自己啓発の費用補助
- 慶弔見舞金制度
- 社宅・寮や家賃補助
- リモートワークの導入
- 余暇活動に対する福利厚生
- 労働環境の整備
社内コミュニケーションの活性化
良好な人間関係は従業員満足度の中でも大きな割合を占める要素です。コミュニケーションが活性化されるような施策を打ちましょう。例えば、従業員同士の会話が発生しやすくなるよう社員食堂やカフェコーナーを設置したり、フリーアドレスオフィスにしたり、従業員同士の飲み会に補助制度を設けたりと、やれることはたくさんあります。満足度調査の内容に従い、施策を検討してみましょう。
従業員エンゲージメントを高めるには?
続いては、従業員エンゲージメントを高める取り組みを説明します。
現状の従業員エンゲージメントを調査する方法
エンゲージメントサーベイは、従業員向けに行う定期的なアンケート調査です。
エンゲージメントサーベイの調査目的は、組織の状態を把握することです。そのため、自分の回答は上司等に見られることがないことを説明しておきましょう。
調査項目としては以下のような設問が挙げられます。
- この会社で働けることを誇りに思うか
- 組織の目標「~~」に共感するか
- 組織の目標に見合った成果をあげているか
従業員エンゲージメントを高める主な施策
現状の課題を抽出して解決策を立てる
エンゲージメントサーベイの調査結果を分析し、組織が抱える課題を抽出します。例えばサーベイの結果、労働条件や職場環境に関する項目は良好な結果が得られたにも関わらず、組織の方針や目標達成に関する項目に低い結果が得られたとします。
この場合は、後述するような企業理念の共有や目標達成に関する上司と部下のコミュニケーション改善などが解決策となりえます。このように、サーベイの結果に応じて 施策を検討しましょう。
企業理念を共有し、浸透させる
企業が持つミッションやビジョン、バリューは可視化しづらく、日々の業務をこなす中で薄れていってしまいやすいものです。経営者がそれらを言語化し、定期的に説明・発信することで、浸透させることが重要です。企業のビジョンが魅力的であるほど、従業員が自分の仕事に誇りや愛着心を持つことができるでしょう。
従業員満足度の改善に取り組む
従業員満足度と従業員エンゲージメントには相関関係があるため、まずは従業員満足度向上に取り組むのも良いでしょう。
従業員エンゲージメントを向上させる方法の多くは、従業員満足度の向上施策と被るものが多くあります。例えば、前述した企業理念の共有や、職場環境の整備、福利厚生の充実、社内コミュニケーションの活性化などが主な例です。
従業員を尊重するような職場環境・制度に整える
従業員はさまざまなバックグラウンドを持っています。子育てや介護で忙しい方もいれば、持病を持つ方や、障がいを持つ方など、それぞれのバックグラウンドを尊重した職場環境や、働きやすい制度に整えることで、従業員が業務に集中する環境を作ることができ、効果的です。
リーダー、マネージャー、経営層の言動を見直す
上層部の言葉や行動を見直すことも大切です。上層部の言動は、企業理念や方針を発信する上で非常に重要です。にもかかわらず、従業員と上司との信頼関係が構築できていないと、コミュニケーションやフィードバックの場において齟齬が出る問題が発生します。
昇格時など、定期的なタイミングで企業理念・経営方針の浸透を図るとともに、部下とのコミュニケーションに関する講習を必須とする等の対策を実施しましょう。
組織の連帯感を高める
組織は大きくなるほど連帯感を高めるのが難しくなります。一体感を醸成するためには、やはりコミュニケーションの活性化を図る施策のほか、従業員表彰制度などを設けるとよいでしょう。自主的な取り組みを会社が評価していることを内外に示すことで、会社が重視するものを示すとともに、モチベーションを上げる効果が期待できます。
従業員が仕事や会社に誇りが持てるようにする
働いていると、ふと自らの業務がなんの役に立っているのかわからなくなる気持ちになることがあります。しかし、どういった業務も間接的に人の役に立っています。従業員が仕事に誇りを持てるよう、企業や個々の業務がどのように社会の役に立っているのかを伝える機会を取るようにしましょう。各種面談や方針説明会など、コミュニケーションの場を持つことで解決できます。
従業員満足度と従業員エンゲージメントを高めて、理想の組織作りを実現しよう
今回は、従業員満足度と従業員エンゲージメントの違いや、それぞれのメリット、高め方について説明しました。
従業員満足度と従業員エンゲージメントは単なる人材確保以外にも、従業員のロイヤルティを高め、業績向上や組織改革を進めやすくする効果があります。
どちらを高めるにも、まずはアンケート調査で現状を把握するところから始まります。
満足度とエンゲージメントを高め、理想の組織作りを行いましょう。