ハラスメント教育とは何か
~教育効果・防止対策について
1.ハラスメントとは何か
ハラスメントは(harassment)は「いやがらせ」「いじめ」を指す言葉です。 身体的・精神的な攻撃などにより他者に不利益や精神的苦痛を与え、不愉快にさせることを指します。まず、ハラスメントを考察するうえで大切な以下4つのポイントを押さえましょう。
- ハラスメントの定義
- ハラスメントに関する事業者の責任
- パワーハラスメント防止対策の義務化
- 第三者ハラスメントとは
ハラスメントとは
ハラスメントの代表的といえるパワーハラスメントについて、厚生労働省の定義は以下のとおりです。
職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であること
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
③労働者の就業環境が害されるもの
①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
引用:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/definition/about
ハラスメントに関する事業者の責任
ハラスメントにおける事業者の責任において、ハラスメントをする側とされる側だけの問題ではなく、事業者が適切かつ有効な措置を講じることが求められています。
パワーハラスメント防止対策の義務化
昨今、ハラスメントに関する事業者の責任は重くなっています。
令和2年6月1日には改正労働施策総合推進法の改正によって、大企業における職場のパワハラ対策が義務化され、令和4年 3月31日まで努力義務とされていた中小企業においては令和4年4月1日より義務化されました。
第三者ハラスメントとは
労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」の付帯決議により、社内のハラスメントだけでなく、取引先や下請負人、就職活動中の学生など第三者に関するハラスメントも雇用管理上の配慮が求められるようになりました。
2.ハラスメントの実態
ハラスメントの定義や関係法規制について解説してきましたが、ここからはハラスメントの実態について解説します。
令和3年4月発表の厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」の概要を記載します。
企業調査結果は以下のとおりです。
- パワハラ、セクハラ、顧客等からの著しい迷惑行為、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(いわゆるマタハラなど)、介護休業等ハラスメント、就活等セクハラについて、過去 3 年間に相談 があったと回答した企業の割合をみると、高い順に
パワハラ(48.2%)
セクハラ(29.8%)
顧客等からの著しい迷惑行為(19.5%)
妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(5.2%)
介護休業 等ハラスメント(1.4%)
就活等セクハラ(0.5%)
各ハラスメントについて、過去 3 年間の相談件数の推移を聞いたところ、セクハラ以外では「件数は変わらない」 の割合が最も高く、セクハラのみ「減少している」が最も高かった(「件数の増減は分からない」 「把握していない」を除く)。 - ハラスメントの予防・解決のための取組を進めたことによる副次的効果は、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」(35.9%)の割合が最も高く、次いで「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」(32.4%)が高かった。
- ハラスメント予防・解決のための取組を進める上での課題については、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」の回答率が最も高かった。 引用:https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/000783176.pdf
3.ハラスメントが起こる原因
なぜハラスメントが起こるのか…ハラスメントをする側の人格問題は大きく影響しますが人格以外について考えると、優越的な立場に立ちやすい管理職や上司がハラスメントをしている場合が多いのではないでしょうか。とすると、なぜ管理職や上司はハラスメントをするのでしょう。それは、業績目標達成に対して過度な要求が原因になっているケースが多いのではないでしょうか。達成不可能な高い目標を設定したり、責任者に実質的な権限を与えすぎたり、閉鎖的な環境では、ストレスを感じやすくなります。その結果、お互いを尊重する気持ちが薄れ、ハラスメントが起きやすくなってしまいます。
また、階層の上から下にハラスメントは伝播することもよくあります。
社長は役員を、役員は部長を、部長は課長を、課長は社員を叱責するような構図は皆様の周りでないでしょうか。そして、そのような負の連鎖が悪き組織文化として根付いてしまっている場合もあります。
4.ハラスメント教育をおこなう効果・効能
ハラスメントを減らすためにさまざまな取り組みをしている企業があると思いますが、今回はハラスメント教育に焦点を当て解説します。まずはハラスメント教育を行うことで得られるメリット、「メンタル不調者の低減」「離職率の低下」「採用コストの圧縮」「働きやすい環境づくり」の4点についてみていきましょう。
メンタル不調者の低減
こちらのグラフをご覧ください。
令和4年度総合的なメンタルヘルス対策に関する研究会報告書の報告書によれば、地方公務員の疾病者数の推移になります。このグラフからわかるように精神及び行動の障害者数が増えています。時間外労働が影響していると言われていますが、時間外労働をしなければ対応できない仕事を割り当てられているということが実態にあります。
メンタル不調者が発生した場合には、誰かがその業務を代わりに遂行しなければならず、メンタル不調者が発生する前に予防することがとても重要です。
離職率の低下
ハラスメントによる離職は年間87万人とも言われています。また、問題なのはハラスメントが起因していながら離職する従業員は「もうこの会社とは関わりたくない」と思い、ハラスメントの事情を伝えず次の転職しているケースがあります。
そうすると事業主はハラスメントの実態がつかめず、改善することができません。
採用コストの圧縮
離職が起きれば、新たな人員を確保しなければなりません。採用するためにはコストがかかり利益が失われます。
ハラスメントが防止できていれば、従業員が離職せず、新たな採用コストが掛からないため未然に防ぐことが大切です。
働きやすい職場づくり
令和3年4月発表の厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、ハラスメントの取り組みを進めたことによる副次的効果において、約41%の会社が職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなると答えました。
コミュニケーションが活性化することで、自由闊達により良いアイデアが生まれることが期待できます。
5.職場におけるハラスメントについて
これまでハラスメント教育を行い、ハラスメントを防ぐことにより得られるメリットを解説してきましたが、実際にハラスメントとはどのようなものがあるのかみていきましょう。
8つのハラスメント
- パワーハラスメント(パワハラ)
- セクシュアルハラスメント(セクハラ)
- マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ)
- ケアハラスメント(ケアハラ)
- モラルハラスメント(モラハラ)
- ジェンダーハラスメント
- アルコールハラスメント(アルハラ)
- リストラハラスメント(リスハラ)
パワーハラスメント(パワハラ)
職場における優越的な関係を背景とした言動により、労働者の労働環境を害することを指します。厚生労働省ではパワハラを6類型にて解説しています。
①身体的な攻撃:殴る、蹴る、ものを投げる
②精神的な攻撃:人格否定、侮辱、過度な長時間の叱責、他の従業員の面前での叱責
③人間関係の切り離し:合理的な理由のない別室隔離や自宅研修、集団での無視
④過大な要求:達成困難な目標を与え、達成できなかった場合に厳しく叱責する。
⑤過小な要求:能力に見合った仕事を与えない。
⑥個の侵害:プライベートな事柄を課題に詮索する。職場外の活動を継続的に監視する。私物の写真を撮影する。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
職場における性的な言動により、労働者に対して不利益を与えることを指します。
セクハラは下記2類です。
①対価型:労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。
②環境型:労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に 重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。
マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ)
マタニティハラスメントとは、妊娠・出産・育児に関する言動により、女性労働者の就業環境を害することを指します。
パタニティハラスメントとは育児に関する言動により、男性労働者の就業環境を害することを指します。
ケアハラスメント(ケアハラ)
「働きながら介護をしている従業員に対し、嫌がらせをしたり、必要な制度を利用させなかったりするなどの不利益な行為全般」を指します。
モラルハラスメント(モラハラ)
言葉や態度などによって人格や尊厳を傷つけたり、精神的な暴力や嫌がらせをしたりすることです。フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した造語であり、1998年にマリー氏が『モラルハラスメント』という著書を出版したことで、その考え方が広まりました。
ジェンダーハラスメント
性別を理由にした不当な仕事の割り振りや、差別的な発言などの行為を指します。
アルコールハラスメント(アルハラ)
飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為・人権侵害を指します。
飲酒の強要や意図的な酔いつぶしなどが該当します。
リストラハラスメント(リスハラ)
リストラの対象となっている人に対して、主に自主退職するように仕向ける嫌がらせを指します。
このほかにも新しいハラスメントワードが次々に出ています。例えば顧客が従業員に対して過度な要求やクレームをするカスタマーハラスメントがありますが、今回はハラスメント教育対象者外であるため省略します。
ハラスメントについて新しい単語が生まれるということは、それだけネガティブな感情を持つことが多いということと、それに対して共感されやすいということが考えられます。
6.ハラスメントのリスク
ハラスメントの種類について解説してきましたが、ハラスメントの発生は企業に対してどのようなリスクがあるのでしょうか。
ハラスメントは放置すると、被害者からの告発や訴訟により、刑法上の罪に問われることや民事上の不法行為と認定され、賠償金の支払いが発生する可能性があります。
(1)刑法上の犯罪
刑法上の犯罪に該当する行為をした者は、逮捕・起訴されたり、刑事罰を受けたりする可能性があります。ハラスメントの中でも、きわめて悪質性が高い行為といえるでしょう。
- 暴行罪(刑法208条)
- 傷害罪(刑法204条)
- 名誉毀損罪(刑法230条)
- 侮辱罪(刑法231条)
- 強制わいせつ罪(刑法176条)
(2)民法上の不法行為(権利侵害)
ハラスメントによって被害者の権利を侵害し、損害を与えた場合には不法行為に該当する可能性があります。
(3)行政法上のハラスメント該当行為
ハラスメントのなかでも、パワハラ、セクハラ、マタハラ/パタハラ、ケアハラについては、事業者(企業)にハラスメントの防止・対応のために必要な措置を講ずるよう義務づけられています。
事業主(企業)がハラスメントの防止・対応に関する措置を講じる義務を怠った場合、厚生労働大臣による行政処分の対象になりえます。
7.ハラスメント教育の進め方
ハラスメントが事業主に与えるリスクをみましたが、ハラスメントが発生しないよう誰にどのような教育をすべきでしょうか。対象者は管理職から始めることをお勧めします。それは、職位を利用して優位的な立場に立ちやすいためです。
ハラスメント教育の内容は大きく3つに分けると良いでしょう。
- ハラスメントが起こす経営インパクトの理解
- ハラスメントに該当するNGラインの理解
- 心理的安全性が確保された組織の作り方
ハラスメントによる経営インパクトの理解
はじめにパワハラによる自死や就活生に対するセクハラが発生した場合、企業イメージの失墜や失われた命に対して取り返しがつかないことになります。ハラスメントは経営に対して大きなインパクトを与える可能性がある大きな犯罪であることを認識することが重要です。
ハラスメントに該当するNGラインの理解
次にハラスメントに該当するNGラインを理解することが重要です。管理職になるような方の多くはハラスメントが良くないことは理解していると思われます。
ただし、どこからどこまでという程度問題を会社として基準をあわせていく必要があります。そのために有効な方法は過去のハラスメント裁判例などを用いて、実際のケーススタディを行うことが有効です。
参考:厚生労働省 明るい職場応援団
引用:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/index/page:7
心理的安全性が確保された組織づくり
最後に心理的安全性が確保された組織づくりに関する教育を実施することが大切です。具体的には、心理的安全性の作り方や、生産性とパフォーマンスとの相関理解、スキルとしては話を聴く傾聴スキルや承認のスキルを習得することです。
8.まとめ
今回はハラスメント教育について解説しました。ハラスメントは単なる行き過ぎた指導にとどまることなく刑法上の犯罪に至る可能性がある重大な事項です。
また、ハラスメントによって精神的苦痛を味わい、社会復帰が難しくなる従業員が生まれてしまう可能性もあります。そのようなことが起きる前に、貴社のハラスメントの実態調査と教育を点検してみてはいかがでしょうか。