コラム

イノベーション人材
~重要性と特徴・育成方法を解説

イノベーション人材とは

イノベーション人材とは、企業のなかで革新を起こせる人材を指します。革新の対象は「サービス」「ビジネスモデル」「組織」など経営活動全般が対象です。
業種や業界ごとによりイノベーションの度合いは異なると思いますが、重要なことはイノベーションを起こすことにより、企業がこれまでにない新たな付加価値を社会に対して生み出せるようになることです。

イノベーション人材が求められる背景

企業がなぜイノベーション(革新)を起こす必要があるのでしょうか。その理由は、日本市場における人口減少、価値観の多様化、新たな事業創出などが考えられますが、どのような背景があるのか具体的に解説していきます。

経済産業省が提唱する日本におけるイノベーションの課題

経済産業省のデータをご覧ください。


引用:経済産業省 第2節 我が国のイノベーションの創出に向けた課題
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2017/2017honbun/i2320000.html

世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表している国際競争力指標によれば、日本のイノベーションランキングは2016-2017年版の報告書では、2015-2016年版の5位から順位を下げて8位となっています。「企業の研究開発投資」、「科学者・技術者の有用性」及び「特許協力条約に基づいた特許申請」では高い順位となっている一方、「イノベーション能力」及び「研究開発における産学連携」が上位10か国と比較して低い順位となっています。

「イノベーション能力」の指標が低い理由については、以前は企業に対して「自前の研究開発能力」が問われていましたが、2013-2014年版以降は「イノベーション能力の保有」が問われるように変更されたことの影響が指摘されています。
日本の企業経営者の自国への評価が低下した可能性や、研究開発の成果を社会的価値につなげる力やオープン・イノベーションに対する日本の弱みが示された可能性があるとも指摘されています。

我が国のイノベーションの課題としては、①顧客価値の獲得に関する環境変化への対応の遅れ、②自前主義に陥っている研究開発投資、③企業における短期主義、④人材や資金の流動性の低さ、⑤グローバルネットワークからの孤立が挙げられており、これらの課題を解決し、イノベーション創出をしていくためには、オープン・イノベーションの推進が重要だとされています。
自社単独のみで研究開発する企業の割合は61%となっており、半数以上の企業で10年前と比較してオープン・イノベーションが活性化していないとの分析もされています。このことは、「研究開発における産学連携」の順位が相対的に低いことにも表れていると考えられます。

技術革新

IoT、AIなどの新規技術により、大量生産・画一的サービス提供から個々にカスタマイズされた製品・サービスの提供、既に存在している資源・資産の効率的な活用及びAIやロボットによる、従来人間によって行われていた労働の補助・代替などが可能となりました。つまり、人間とテクノロジーがどのように共存していくのか、ビジネスモデルの変化が求められています。

シェアリングエコノミーの拡大

シェアリングエコノミーとは、個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む)を、インターネット上のマッチング・プラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動と定義されます。
これまでは、個人が所有する時代でありましたが、使いたいときだけ使用するシェアリングエコノミーのビジネスモデルが拡大しています。

Society5.0

Society5.0とは2017年6月に政府が決定した「経済財政運営と改革の基本方針2017」において、Society 5.0(超スマート社会)の実現を目指した取組を指します。
具体的には、第4次産業革命における技術革新を活用して国民生活を豊かにするという考え方です。
Society 5.0とは、「サイバー空間の積極的な利活用を中心とした取組を通して、新しい価値やサービスが次々と創出され、人々に豊かさをもたらす、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く人類史上5番目の社会」とされています。少子高齢化が進む我が国において、個人が活き活きと暮らせる豊かな社会を実現するためには、IoTの普及などにみられるシステム化やネットワーク化の取組を、ものづくり分野だけでなく、様々な分野に広げ、経済成長や健康長寿社会の形成等につなげることが重要になります。

このように市場が変化し、それに適合する事業へと変化させるためにイノベーションが必要なのです。それでは、イノベーションを起こす人材はどこにいるのでしょうか。

通常、イノベーション人材は社外から採用することが多くあります。
なぜなら、これまでの経験則や成功体験、社内人脈の枠の中では新しい視点で考えることが難しいためです。
それでは、外部のコンサルタントではイノベーション人材になり得ないのでしょうか。
新たな視点を得るという観点においては、外部のコンサルタントも非常に有用です。ただし、新たなイノベーションの種を事業化していくためには、社内にイノベーションを具体的な事業へと発展させられる人材が必要なため、採用の形式を採ることが多いのです。

イノベーション人材が保有する特性とは

それでは、イノベーション人材とはどのような人なのでしょう。ここからはイノベーションを起こせる人が持ち合わせている特性について解説していきます。これは一例になりますが、イノベーションを起こすために必要な能力をとらえていただきたいと思います。

新たなビジネスアイデアを生み出せる力

イノベーションを起こすためにはこれまでにない新たな着想を持つことが必要です。

特定の領域に関する専門性が高い

特定の領域に関する専門性が高くなければ、どのような技術や基礎知識を転用すれば、新たな革新ができるのか発想できない可能性があります。

粘り強い課題遂行能力

イノベーションはこれまでの事業の延長線上にないことが多いため、時間を要します。長い期間結果が出ないこともありますので、仮説検証を繰り返すことができる粘り強さが必要です。

業種業界の垣根を超えた人的ネットワークを構築する力

アイデアの着想を持つことにも繋がりますが、幅広い人的ネットワークを持っていることで着想の幅が広がります。くわえて、幅広人的ネットワークがあれば、その分野の専門性を結びつけることができます。それにより、本人がその分野に対する専門性がなくても専門家にアイデアをヒアリングして、実現可能か否かについてすぐに検証することが可能になります。

挑戦性や知的好奇心が高い

まずは取り組んでみようという挑戦性や知的好奇心がなければ、世の中に溢れる情報を主体的に取りに行く、もしくは、うまくいくかわからないけど面白そうだからやってみようという姿勢が大切です。

イノベーション人材の3つのタイプ

それでは、イノベーション人材になり得る特性を持った人材はどのようなタイプに分類できるかみていきましょう。

技術タイプ

いわゆるイノベーションの種を自ら作ることができる人です。

企画タイプ

イノベーションの種をどのようにすれば事業化できるのか、構想できる人です。

管理タイプ

事業化の構想ができたアイデアを収益化できるまでの期間、プロジェクトオーナーとして管理できる人です。

イノベーション人材の力を最大化できる企業の特徴

イノベーション人材の力を最大化させるためには、企業風土と経営体力の余裕が必要といえます。

企業風土


イノベーション人材の特性やタイプについて解説してきましたが、イノベーション人材をせっかく採用できたとしても、受け入れる企業の態勢が整っていなければ、イノベーション人材が力を発揮することなく離職につながってしまう恐れがあります。
そこで大切になることは企業の風土です。

既存事業を担当する事業部がイノベーションを起こそうとする部門に対して、寛容な姿勢がなければなりません。寛容な姿勢がなければ、イノベーションが短期思考になってしまい、これまでの既存事業の延長線としてのイノベーションの枠から出ない可能性があります。

経営体力の余力

もう一つ大切なことは、資金面での余裕です。イノベーションを起こしていくために時間がかかるので、企業に経営体力の余裕がなければ実現が難しくなります。
従いまして、イノベーション創出に向けてどの程度予算が確保できるのか、試算することから始めてみてはいかがでしょうか。

イノベーション人材の育成方法(育成の具体論)

外部から採用する以外に、社内にいる人材をいかにイノベーション人材へと育てていけば良いのでしょうか。具体的な育成方法をみていきましょう。

実際の職場で新規事業経験を積ませる

新規事業としてイノベーションの事業をまずは小さく始めて見ることが有効です。その際に大切なことは、期限や投資額をあらかじめ設定していくことが重要です。これにより一定期間や投資額を投じても収益化の目処が立たない場合、再度ビジネスモデルやサービスの見直しをする起点になるからです。
ただし、このルールが厳格になりすぎるとイノベーションではなく、既存事業の改善レベルに収まってしまう必要があるので注意が必要です。

越境学習

既存の事業の枠を越えるためには、いま所属する業種業界から離れることが有効です。そのためには、他社への出向や短期的な異業種交流会で、自分が所属する業種業界の慣例やサービスが他とどのように異なっているのか、他の業種業界の常識を取り入れてみると何が生まれるか、考えさせることも有効です。

イノベーションに関する集合研修

まずは、社員の思考の枠を広げる目的でイノベーションに関する集合研修も効果的です。具体的にはデザインシンキング研修やエスノグラフィー研修、アイデアハッカソンミーティングなど、いまの思考の枠を広げることはイノベーションを起こしていくうえでとても重要です。

イノベーション人材を活用するためのステップ

ここからは、イノベーション人材を活用するためのステップについて解説していきます。

経営戦略、人事戦略とイノベーション人材の位置付けを明確にする

全従業員がイノベーション人材になる必要はありません。イノベーション人材はあくまで企業に変革をもたらすことが期待されており、既存事業を滞りなく進める人材はなくてはならないからです。つまり、皆様の企業が今後どのような経営戦略を考えており、事業構造がどう変化して、そこで働く人の人材像がどのように変化してくるのか考えることが必要です。
業種や業界により異なると思いますが、2割程度イノベーション人材がいれば良いのではないでしょうか。これは、イノベーションを起こしていくために様々なプロジェクトを同時進行で進める必要があることと、組織の中で一定数の人員がいなければ、既存事業からの圧力に屈してしまいイノベーションが生まれにくいといえます。

ただし、いきなり2割のイノベーション人材が生まれることはありませんので、何年後までにどの程度のイノベーション人材が必要なのか、長期的な計画を描くことが大切です。

イノベーション人材が活躍できるための人事制度の整備

イノベーション人材の力を最大化できる企業はイノベーション人材とこれまでの既存人材と制度や仕組みを分けて、人材管理することが有効です。なぜなら、期待される成果や求められる特性が異なるからです。
具体的には採用の評価指標、年次の評価指標、教育体系を区分けすることが効果的です。よくある例としては、イノベーションを起こせる人材だと期待して採用したものの、既存事業の人事制度しかなく、数年後には期待される成果が発揮されず、イノベーション人材の影も形もないということがあります。

イノベーション人材の採用・発掘

高度外国人材の呼び込み

経済産業省は、技術革新をはかるために「高度人材」と呼ばれる専門的な技術や知識を習得した人材を指す人材。とくに、外国人の高度人材のみを指す「高度外国人材」の積極的な活用を持って競争力強化を提唱しています。
引用:経済産業省 第2節 高度人材の確保とイノベーションの創出
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2016/2016honbun/i2120000.html

社内の人材から発掘する

タレントマネジメントシステムや人材管理ツールのデータを活用し、イノベーション人材になり得る可能性がある人材を発掘します。
その際、重要になるのは、発掘した人材に対する動機付けです。これまで取り組んでいた既存事業から離れるので、心理的な不安を解消し、会社にとって期待していることをしっかりと理解・納得してもらうことが大切です。

まとめ

今回はイノベーション人材について解説してきました。企業を持続的かつ長期的に反映させるために、企業に変革をもたらすことためにイノベーション人材は欠かせない人材です。
そのためには、皆様の会社が今どのような経営戦略をもとに人事戦略を構想しており、その人事戦略を果たすために、どのような人材が必要なのか検討が必要です。
これを機にどのようなイノベーション人材がどの程度、皆様の企業に必要なのか見直されてみてはいかがでしょうか。

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