イントレプレナーとは?アントレプレナーとの違いや育成のポイント
VUCAと呼ばれる不確実性の時代、新しい事業や社会変革を起こしていける変革型リーダーが望まれています。日本国内でも20世紀型の産業がどんどん成熟化していく中、新しい柱になるような新規事業への期待はますます高まっているといえるでしょう。
一方、今の日本企業にとって大きな問題は、変革型リーダーシップが必要であるにもかかわらず、その経験を積んだ人材がほとんどいないことにあります。従来の日本企業ではそういった新規性を持つ人材ではなく、むしろオペレーションをきっちりこなす人材が重宝されてきました。
ボストンコンサルティングのBCGダイヤモンドというフレームワークによれば、事業は「創造期→成長期→優位性確立期→効率性追求期」と進み、効率性追求の果てにまた創造期(イノベーション)に戻るというサイクルを繰り返すとされています。今の大企業のコア人材が「効率性追求期」に育っているとすれば、いきなりイノベーションを起こすような変革型人材になれといわれても、「そんな無茶な」というのが率直な感想ではないでしょうか。
そういった中、昨今では多くの会社で社内ベンチャー制度などを設け、自社内で変革型リーダーを育成しようと試みています。今回は、そうした社内における変革型リーダー、イントレプレナー(社内起業家)をいかに育成していくのかについて考えていきましょう。
アントレプレナー、イントレプレナーとは?その違いは?
アントレプレナーとは「事業を起こす人、起業家」と訳され、0から新しい事業・ビジネスを起こした人のことを指します。つまりは企業経営をしているという意味を持つ、「企業家」や「経営者」とも意味合いが異なります。
そしてイントレプレナーは、「起業家」とよばれるアントレプレナーと異なり、企業内で新規事業開発を行ったり既存事業の改革を行ったりする人材を、「企業の中(in)におけるアントレプレナー(Entrepreneur)」ということで「イントレプレナー(Intrepreneur)」と呼びます。アントレプレナーは「ひらめき・創造力・柔軟性・スピード・決断力・成功への執念」といった事業を生み出すうえで欠かせない要素を持っていますが、顧客基盤や資金力など、資源の面では恵まれないことが多いでしょう。そこで、大企業の持つ「顧客基盤・資金力・組織力・パートナー人材・ブランド力」などを上手く掛け合わせることによって、より効率的に新規事業を生み出していこうというのがイントレプレナーです。
アントレプレナーは基本的に自分の構想に従って自由に事業を描くことができますが、イントレプレナーは既存組織のビジョンや戦略に従う形で構想を練ります。資金面では、アントレプレナーは知人やベンチャーキャピタルから資金調達したり自己資金で始めますが、イントレプレナーは企業から支援してもらう形になるでしょう。人材についてもアントレプレナーは知人やコネ(紹介)を使って集めるしかありませんが、イントレプレナーは組織の人事部を通じて調達できることができます。企業のもつ経営資源と個人(起業家)のもつ創造力を掛け合わせ、大規模かつスピーディに、組織的ながらも柔軟に、個のイノベーションと企業戦略を合わせる形で、相反する要素をうまく昇華していくことがイントレプレナーの目指す姿といえるでしょう。
イントレプレナー(社内起業家)を育成するポイント
新規事業を生み出す際に、もっとも大きなネックとなるのは既存事業の存在です。
- 既存事業が大きいために新規事業が小さく、不十分に見えて過小評価してしまう
- 既存事業とのカニバリゼーション(共食い)を意識してしまって時流に乗り遅れてしまう
- 既に成熟している既存事業への再投資を優先してしまう
など、既存事業にまつわる罠には枚挙にいとまがありません。総じて、既存事業が成熟しているがゆえに、そこにいる人材はオペレーション型人材が多く、そのロジックで新規事業を判断してしまうところに根本的な問題があります。
ここでは既存事業のような「できあがっている事業」をどう運営するか、ではなく「まだ海のものとも山のものともつかない事業」をどう評価し育てていくかについて重要なポイントを押さえておきましょう。
◆100件やって1件当たればOK ~決定論ではなく確率論~
新規事業は多産多死が原則です。俗に「千三つ」といいますが、決して誇張ではなく、1,000件のアイデアがあった場合、最終的に事業化するのは本当に2~3件となります。この相場を押さえておくことが重要で、3件トライして3件成功する、といった決定論的なモデルではなく、100件やって1件成功すれば御の字であることを押さえましょう。逆に言えば、ある会社で新規事業提案を募ったところ100件集まったからよかったね、というわけではなく、1,000件くらい集まらなければ事業化できる可能性は低いと考えなければいけません。
日本企業でよくある落とし穴がこの部分で、まずは「千三つ」ということへの相場観がないこと、加えて(オペレーション的な発想で)取り組んだものは全て成功させなければいけないという強迫観念のようなものがあることです。
「リスクがあるなら認められませんね」といったリスクの過大評価や完璧主義、失敗を否定する文化、あるいは「いつになったらこの事業は100億円の規模になるの?」といった短期的な成果の追求は、新規事業を組織的に育成するという意味では上手くいかないと肝に銘じておくべきでしょう。
◆アイデアが集まる仕組み・育つ仕組みを作る
1,000件のアイデアが集まった場合でも、それが単なる一回きりのイベントで終わってはあまり意味がありません。新規事業開発は多産多死が原則である以上、「いかに継続して大量のアイデアを集め続けられるか」、そして「いかに全体としてのパフォーマンスを最大化していけるか」が非常に重要になります。そこで、新規事業開発においてはアイデアの収集から育成・事業化、卒業までをフェーズ分けして仕組み化しておく必要があります。
Phase1:アイデアを集めるフェーズ
まずは事業案をいかに大量に集めるか、この段階では具体化されていないイメージだけでも構わないので、どんなアイデアでもとにかく集めることが大切です。ここでは社内において起業家精神を持ちうる人材候補をピックアップすることも目的ですので、この段階でしっかりした事業計画などを求めないようにしましょう。ただでさえ社員が新規事業を提案するのは勇気がいる話ですので、とにかく提案のハードルを下げること、そして新規事業提案へのタッチポイントを増やすことが大切です。毎日のメールマガジン、先輩起業家とのミートアップ、新規事業開発のワークショップ、懇親会(飲み会)など、あらゆる機会をセッティングして全社員に新規事業開発に対して興味を持ってもらうことが必要です。
Phase2:事業を育てていくフェーズ
次に提出されたアイデアを事業に育てていくフェーズです。ここではアイデアべースの「やりたい」段階から本格的な事業化まで細かく段階を分け、それぞれの段階に応じたサポートが必要になります。例えば環境分析をどう行うのか、資金調達はどのように考えるのか、テストマーケティングはいつ実施するのか等、各段階で押さえるべき考え方やマニュアルのようなものを作っておくと良いでしょう。企業ごとに過去の成功事例などを分析しながら、独自にノウハウ化していく必要があるでしょう。
また、このフェーズで大切なことは限られた資源をいかに傾斜配分し、芽のある事業に投資をしていくかです。期待の持てる事業には多くの経営資源を投入し、芽のない事業は早期に撤退しなければなりません。撤退基準については客観的なものを作っておくことが大切です。
Phase3:卒業フェーズ
運よく事業が成長し、一定規模になれば新規事業開発の部署からは独立していきます。この場合は部門化したり、子会社化したりと色々なケースですが、ここまでくれば一安心ということになるでしょう。
この「アイデアを集めるフェーズ」、「事業を育てていくフェーズ」、「卒業フェーズ」で求められるスキルやノウハウは異なるため、部署やチームを分けて取り組んだ方が良いでしょう。どれも片手間でできるような仕事ではありませんので、一定の専担者を置いて取り組んでいきましょう。
◆新規事業に専念できる環境を作る
上述の通り、新規事業を継続的に育成していくためにはそれをサポートする体制作りが欠かせません。新規事業開発を行う専門組織を作ることはもちろん、立ち上げ人材(イントレプレナー)が新規事業に専念できる制度作りも重要でしょう。アイデアが一定の段階まで固まり事業化に向けて走り出した場合、その発案者は所属部署の意向にかかわらず異動することができるなど、人事面でのサポートを行いましょう。優秀な人材はどこでも必要とされますので所属部署の抵抗はあるかもしれませんが、兼務でできるほど新規事業開発は簡単なことではありません。このあたりも経営のコミットメントが必要な部分ですし、それを当然と許容する企業文化を育むことが大切です。
また、業績に連動した形での人事評価や報酬制度を導入することも必要です。一定のリスクをとって新規事業立ち上げに参画するわけですから、業績連動型の成果報酬制度を設けるなど、インセンティブの仕組みも工夫しておきましょう。
おわりに
さて、いかがでしたでしょうか。イントレプレナーを育成する仕組みづくりは、多くの場合組織全体の風土改革になります。オペレーション型人材が中心の企業において継続的に新規事業を生み出していくためには強力な経営のコミットメントが必要です。一方で真剣に取り組み続けていけば、会社を前向きに変革していこうというマインド(イントレプレナーシップ)が社員の中に育っていくでしょう。
継続的なイノベーションは企業の使命でもあります。企業の資源と個人の創造力をうまく発揮できるようなイントレプレナーを育て、企業の中に活力を生み出していきましょう。