管理職育成
~機能不全に陥る3大課題と成功のポイント
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1.管理職の業務や役割とは
管理職とは一般的に労働基準法における第41条の法定労働時間(労基法第32条)、休憩(労基法第34条)、休日(労基法第35条)、時間外及び休日の労働(労基法第36条)の適応を除外される人を指します。
また、労基法第41条2号の「事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者」が管理監督者と呼ばれ、一般的に管理職と呼ばれます。
それでは、管理職は会社からどのようなことを期待されているのでしょうか。その役割は大きく3点あります。
業務管理
業務管理とは、売り上げ目標の達成や新商品の開発、品質の確保など、部門に割り振られた業務を遂行するために必要な管理全般を指します。
労務管理
労務管理とは、管理監督下にある従業員の労働に関連する事項を管理する業務を指します。具体的には勤怠管理や安全衛生管理、職場環境・業務改善などが挙げられます。
人材育成
人材育成とは、管理監督下にある従業員の育成を行うことを指します。
以前に比べて、管理職の役割は増えているように感じている企業が多いのではないでしょうか。
背景には会社から従業員の自律性や主体性を促進してほしい。エンゲージメントやモチベーションを向上させてほしい。在宅ワークで組織とのコミュニケーションが不足がちな従業員をフォローしてほしい。など、業務管理・労務管理・人材育成が複雑に結びついた役割が期待されています。
一方、管理職になりたいと考える従業員は減少しています。ある民間企業の調査によれば、「管理職になりたいとは思わない」と考えている人が7割を超えているという状況です。理由は、出世したいと思わない、責任が増える、仕事量が増えるなど様々ですが、管理職に対する魅力が低いことが根底にあります。
管理職になって、責任が増えることが心理的な負担が感じるものの、それに見合う報酬がなければ、なりたくないと感じることはごく自然なことです。ただし、管理職には大きな魅力があります。責任も伴う一方、権限が得られます。一人では成し遂げられなかった大きな仕事を組織というテコを使って大きな成果を手に入れることができます。また、部下を育成し、部下自身が大きな成果を手に入れることは、上司である管理職としてとても大きな喜びにつながります。
経営者や人事担当者は、管理職になる魅力を従業員にいかに伝えていくか、動機づけしてくかが重要でしょう。
2.管理職の役割を果たすために求められる能力や資質
どのような人材が管理職として活躍が期待できるのか、求められる能力や資質について解説します。
個人の特性
まずは、能力の土台にある特性です。
人格
人格とは、優れた人柄の人を指します。平気で嘘をつくことがあってはなりません。また、部下のことをなじるような人は管理職には相応しくありません。
主導していく力
管理職には、大きく3つの責任があると言えます。
実行責任、説明責任、結果責任。その3つの責任を自らの力で果たしていくことが求められます。そのため、誰かがやってくれるだろう、と他人に責任を転嫁していくことなく、自らの責任において業務を推進していくことが求められます。
粘り強さ
業務を遂行するにあたり、上手くいかないことが大半です。そのときにすぐに諦めることなく、どのようにすれば上手くいくのか、何が上手くいかなかったのか仮説と検証を繰り返し、成果が出るために粘り強く関わっていく姿勢が必要です。
ストレス耐性
他部署や仕入れ先、顧客との折衝には心理的なストレスが加わります。そのときにいかに平常心を保ってことに臨めるかが非常に大切な特性です。
そのため、普段の業務の中では発生しづらいストレス環境下で、どのような対応をするのかを管理職に登用する前に評価することも有効です。
コミュニケーション能力
働きやすい職場づくりとしての労務管理や、部下のモチベーションを高めるために必要な能力がコミュニケーション能力です。
感受性
感受性は、部下がどのような状況に置かれているのか、心情把握するうえでとても大切な能力です。
柔軟性
一度組織として決めたことでも、さらに良い案や手法が出てきたときには、即座に取り入れる柔軟さが必要です。若手ビジネスパーソンはとても豊かな感性を持っているため、柔軟性がなければ、多様な価値観を持つ部下と一緒にビジネスをすることは難しいと言えます。
ただし、柔軟性があることと優柔不断は異なります。判断基準が明確な場合は、部下からの提案になぜ応じられないのか、どのような判断基準を持っているかを明確に説明することが必要です。
表現力・説明力・説得力
他者に伝える力です。コミュニケーションの基本は相手に対して、自分が期待する行動を行なってもらうことが目的です。
そのためには、どのようにすれば伝わるのか、言葉の選び方や説明する環境づくり、相手に対して何を目的にどのように行動してほしいのかという具体的な説明が必要です。そして、部下から「わかりました。一緒にやりましょう」という言葉を引き出すために、どのように管理職が伝えていくか、とても重要です。
影響力
部下がその管理職の普段の言動を見て受けるもの全てが影響力になります。影響力には良い影響力と悪い影響力がありますが、ここでは良い影響力を指しています。
良い影響力とは、お客様と難しい価格交渉をする際にも、こちらの意思を明確に伝えて、会社の利益を最大化しようとする姿勢や、職場の中で一番気持ちが良い挨拶をする、というものも良い影響を与えます。
一方、悪い影響力の例としては、管理職が一番遅くまで残業を行い、部下が帰りづらくなる雰囲気を作ってしまうことや、一貫性がなく、言うことがいつもころころ基準なく変わってしまうようなことがあれば、部下に対して悪い影響を与えます。
このように、周囲からどのように見られているのか360度サーベイを取ることも影響力の発揮度合いを図るうえでは有効です。
意思決定する力
管理職には3つの責任があることを解説いたしましたが、その責任を果たすために自ら意思決定をしなければなりません。ここからは意思決定するために必要な力について解説します。
状況理解力
状況理解力とはビジネス環境において、今どのような状況に置かれているかを認識する力です。状況を理解するためには、判断できる材料が必要です。そのためには、社内から情報が集まるように利害関係者との関係を構築することもあわせて重要です。
想像力
想像力とは将来に対するビジネス展望やリスク管理において重要になる力です。目の前に起きている事象に対応することはもちろんですが、将来何が起きる可能性があるのか、いま意思決定したことは、将来どのようなリスクがあるのか総合的に判断するため、とくにリスク回避をするうえで重要になる能力です。
判断力
判断力とは膨大な情報の中から必要なものを取捨選択して、善し悪しを決める力のことを指します。難しい判断が必要のない日常業務における平時の場面に必要な力です。
決断力
判断力と異なり、実現可能性が50%未満のような成功か失敗かどちらに転じるかがわからない状況でも方針を決めることが決断力です。
この決断力を養うためには、タフアサインメントと呼ばれる判断が難しい状況下での意思決定場面を数多く経験することも有効です。
業務を遂行する力
管理職とはいえ、一人のプレイヤーとしての業務を抱えていることも多いと思います。管理職とプレイヤーの両方の側面から必要な力として業務を遂行する力について解説します。
担当部門における専門性や経験
意思決定をする力を解説いたしましたが、担当業務における専門性や経験はとても重要です。管理職になればこれまでの部門とは別の部門に配属する企業もありますが、新たな部門に配属された管理職は部下から上申された稟議について意思決定する基準を持ち合わせていない場合、判断に迷うことがあるのではないでしょうか。
同じ部門で管理職に登用された場合は、これまで同じ同僚だった社員が部下になることで、一般社員から見て同僚のときと管理職になってから言っていることが違う、と戸惑うこともあるかもしれません。これを防ぐためには、部門における判断基準を予め決めておくことで、管理職にどのような人材が登用されても一定の意思決定を担保することが可能です。
計画力
計画力とは業務を遂行するために必要な計画を自ら立案する力です。そのためには業務がどのような過程で進んでいるのか、関係者はどのような部門があり、自部署の役割は何か明確に理解することが重要です。
人材活用力
人材活用力とは管理監督下にある部下の今のスキルや能力や経験、どのようなキャリアを歩みたいと考えているか適切に把握し、成果を最大化させるために部下の力を活かす能力です。
そのためには、日頃の評価面談や個別ミーティングの時間を活用して、部下の特性や能力を見極めることが大切です。
3.管理職がマネジメント機能不全に陥る3つの理由
これまで、管理職に求められる能力や資質について解説してきましたが、どんな優秀な管理職でも常に成果を出し続けることは難しいでしょう。管理職の果たすマネジメントが機能しなくなるのか、その原因について解説します。
昇格前のマネジメント経験が不足
管理職はマネジメント業務だけを行うわけではありません。近年の人材不足や業務が多岐に渡ることから管理職自身もプレイヤーとしての業務を多く抱えています。
そして、多くの管理職は管理職として公式に任命されてから初めてマネジメント業務を行うため、マネジメント経験ゼロベースが一般的です。
そのため、管理職前の主任やリーダークラスのときに管理職の仕事の一部分だけでも担当させることで徐々に管理職としての経験を積ませることが有効です。
マネジメント業務が多岐におよび、基礎を習得する余裕がない
新任管理職研修を実施している企業は基礎を学ぶ機会もありますが、そのような機会がない管理職は、管理職がどのような期待役割を担っているのか知らないこともあります。
これまで上司として関わってきた管理職を見て、経験則の範囲内で知っていることはあったとしても、それがどのような背景で必要なのか、理想はどういう状態なのか、という基礎的な知識がなければうまく組織を動かしていくことは困難です。
まずは、新任の管理職にマネジメントの基礎を学習する機会を提供することが有効です。
管理職を育成する仕組みや制度が整っていない
新任の管理職には研修機会を提供しているが、その後の育成やサポート体制が整っていなければ最新の法令や採用されてくる人材の価値観変化など情報に触れる機会がなくなります。それにより、昔の法令の基準のままで職場運営をしていては、最適な職場環境を整えることは困難です。
管理職として知っておくべき重要な変化点になる内容は、社内で情報共有を図ることや知識付与を目的とした育成の仕組みを構築することが重要です。
4.管理職の育成を成功させるためのポイント
それでは、管理職はいかに育てていけば良いのでしょうか。
管理職に期待する役割やスキルを明確化する
一番はじめは管理職に期待する役割を明確にし、その役割を果たすために必要なスキルや能力を明確にすることです。
等級制度に期待役割とスキルを一覧化されている企業も多いと思いますが、重要な点は、その期待役割とスキルを誰が見ても同じものを想像できるか、という観点が重要です。
簡単な例ですが、「早く走ることができる」という記述と「100メートルを10秒で走ることができる」という記述では、後者の方が認識のずれはなくなります。
もちろん、様々な職種に対応しようとすれば、表現が抽象化しがちになります。大切なことは、誰が見ても認識にズレが生じさせないように工夫することです。
くわえて管理職に限らず、一般社員の期待役割とスキルを明文化することで、上位階層に昇格した際にはどのようなことが期待されているのか分かれば、社員のモチベーションアップにつながり、社員自ら自発的に学ぶ文化作りにも大きく貢献でき、離職率の低下にもつながります。
管理職の研修プログラムを構築する
期待役割やスキルが明確になれば、それを身につけるための教育プログラムを構築することが可能です。教育体系の全体像につながりがなければ、流行りものの研修をどんどん組み込んでしまい、つぎはぎ型の研修体系になってしまいます。そうなれば、研修に参加する受講者に対する動機づけは難しく、せっかく学びの機会も提供してもやらされ感になる恐れがあります。
管理職に対するサポート体制を構築する
管理職は研修などの教育以外にも日頃のメンタリング含めたサポート体制が重要です。管理職は多くの責任を背負い業務に取り組んでいるものの、悩みを話せる機会は少ないのが現状です。
とくに管理職になった直後は、環境変化から心理的に大きな負荷がかかります。管理職としてうまく成果を出せるようにするためにも、1年間は部長級の上司がメンタリングすることが有効です。
育成が難しい場合は中途採用
人材不足や経験不足で管理職候補を社内から発掘できないことが今後予想されます。その場合は、課長級の社員を中途採用することも有効です。
しかし、同じような悩みを抱えている企業が多いので、中途採用ニーズも非常に高まっています。管理職候補の社員をいかに惹きつけ、繋ぎ止めるか離職防止の人事施策とあわせて検討することが大切です。
5.まとめ
今回管理職育成について解説していきましたが、一昔前と異なり、管理職に対する魅力が低く見られていることは否めません。今一度、管理職の魅力を高め、管理職になる動機づけを行い、適切な人員を配置できるように人事制度や教育体系を見直してみてはいかがでしょうか。