ミレニアル世代とうまく付き合い、育成するには?
本コラムでも何度か取り上げてきたミレニアル世代、今の若手から中堅の働き盛りで企業の中核をなす層ではありますが、「なかなか付き合い方がわからない・・・」と世代間ギャップを感じている方もいるのではないでしょうか。あと少しで更に下の世代である「ジェネレーションZ(Z世代)」も社会に出てきますので、いかに彼ら彼女らを動機付け、パフォーマンスを上げるかがますます重要になっているといえるでしょう。
ミレニアル世代・ジェネレーションZの特徴と価値観
まずは簡単にミレニアル世代とジェネレーションZの特徴を整理しておきましょう。あくまで米国での特徴ですが、日本においても参考になります。
ミレニアル世代
- 主にアメリカで1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代
- 経済的に豊かなベビーブーム世代の両親のもとで育ち、中・上流家族のステイタスを維持しようと努力する傾向
- 経済繁栄期に育っているものの、9.11テロ事件に大きな影響を受ける
- パソコン
- ネイティブ
- スマホは生活の一部、テクノロジーへの適応能力が高い
- ソーシャルメディア(FacebookやInstagram)が好き
- 教育レベルが高い、多額の学生ローンを抱える
- 「現在」を重視し楽観的、など
ジェネレーションZ
- 主にアメリカで2000年代初頭以降に生まれた世代
- リーマンショックによる不況を経験した両親のもとで育ち、より保守的、財務的にも現実的かつ伝統的な見方(お金、キャリア、教育)をする傾向
- 2008年の世界金融危機とグローバルテロリズムなど、外部の脅威に敏感
- スマホ・ネイティブ
- テクノロジー依存、41%が1日3時間以上パソコンを使っている
- SnapchatやYoutubeが好き
- 多くが同世代の友人よりも自分の方が意識が高いと思っている
- 半数以上が起業を1つの選択肢だと思っている
- 「未来」を重視し現実的、など
ミレニアル世代の働き方への動機付けとしては、トップ3が1位「仕事のインパクト、価値」、2位「学習、自己成長」、3位「家族のような関係性」、ワースト3が「金銭」、「名声」、「自律」となっており(ATDでの研究発表より)、ある意味で日本の高度経済成長期の価値観とは正反対の傾向を示している点が興味深いところです。
世代間ギャップを生み出している考え方の構造
さて、ここからは具体的に「世代間ギャップ」なるものの中身をみてみましょう。表面的な特徴だけを見ては本質的な問題を見失ってしまう可能性もあります。例えば以下のような言い方について皆さんはどう感じますか?賛成の方も反対の方もいらっしゃると思います。
- 偉い人のいうことは黙って聞くべきだ
- 先輩のいうことは尊重すべきだ
- 仕事はお金ではない
- なるべく一つの会社で長く働いた方がよい
一定の年齢以上の方にとっては、「会社内の序列は重んじるべきだ」、「上位者と接点を持てることは名誉である」、「石の上にも三年というように一つのところで長続きしない人間はどこにいっても成長しない」といった考え方が過去一般的であったかもしれません。もちろんその年代の方でも違う考え方を持たれることもありますし、若い人でもこのように考えることはあるでしょう。一方で、こうした考え方とは違い、
- 会社での役職は「役割」にすぎないのだから、正しい/正しくないは個別に内容で判断すべきだ
- 年齢ではなく能力で判断すべきだ
- 雇用契約を通じて会社とつながっているのであるから、あくまで契約の範囲内あるいは契約条件にしたがって働けばよい
- キャリアアップのために会社を変えることは当然だ
と考えることも一定の納得感がありそうです。上記は極端な意見ではありますが、どちらに偏っているかによっていわゆる「世代間ギャップ」が生まれてきますし、お互いが理解不可能な存在にすら思えてしまうから不思議なものです。
ところで、こうした考え方の違いはどこから生まれるのでしょうか?
アメリカのジャーナリストとして活躍し、都市研究で有名なジェイン・ジェイコブズ(1916~2006)の議論を使いながら考えてみましょう。
ジェイコブズは、人間は二種類のモラル(倫理観)を持っているといいます。ひとつは社会で他人と円滑な協力関係を築くための考え方で、ここではそれを「開かれた価値観」と呼びましょう。どんな方でも他社の人間とは年齢や肩書に関係なく一定の敬意をもって接するでしょうし、商品やサービスの価値は正しい「価格」によってオープンに示されるべきだと考えるでしょう。なにか衝突があってもいきなり暴力沙汰にはせずに、交渉や裁判で理性的に決着させたいと願うはずです。
一方、もうひとつは組織や集団の秩序を維持するための考え方で、ここではそれを「閉じた価値観」と呼ぶことにします。ウチとソトを分ける考え方といってもよいですが、多くの伝統的な家庭の中では父親が決定権を持ち、子どもは基本的にそれに従うべき、と考えられてきました。ムラ社会においても、長老が意思決定を行い、それに歯向かう人間は排除されてきましたし、ムラ内部での序列が重要になるでしょう。ここではお金に変えられない何かが存在し(名誉や誇りなど)、それを巡っての抗争は暴力に訴えてでも勝ち取れということになります。
簡単にまとめると、社会には2つの異なる倫理観があり、フラットな人間関係を前提にする「開かれた価値観」と、ヒエラルキーや序列を前提にする「閉じた価値観」があるということ、そして私たちの誰もがその2つの世界を同時に生きているということです。
ジェイコブズは、この二つの価値観が「混同されたとき」、あらゆる組織で混乱が生じると指摘しています。よく見てみると、この「閉じた価値観」は伝統的な会社の論理そっくりですし、「開かれた価値観」は若い人の考え方そっくりではないでしょうか。ここではどちらが良いとかどちらが悪いという話ではなく、この構造そのものを理解したいということです。
厄介なことに、片方の価値観に立つと、もう片方の価値観がとても非倫理的に見えてきます。「他人や別の会社の人間(ヨソ者)とは付き合うな/付き合うべきだ」、「年長者を敬え/対等だ」、「勇敢に戦え/暴力は良くない」。いかがでしょうか。この二者間には分かり合えない壁が存在しそうに思えますし、実際多くの方がそう思っているところです。
ただ、繰り返しになりますが、私たちは誰もが両方の価値観を行き来しているのです。年配の上司であっても市場取引の中では若い方と同様、市場原理に従って行動していますし、若い方であっても家族関係や学校の中では昔ながらの排他的な価値観をもっているものです。ポイントは「会社」というシチュエーションにおいてどちらの価値観にしたがっているか、だけの問題なのです。
あらためて育成のポイントは?~まずはリラックス!~
今回お伝えしたいことは、ミレニアル世代やジェネレーションZといった若者との価値観の違いはあれ、決して分かり合えないものではないということです。相手が「会社」という場所をどのようにとらえているのかを理解し、そのうえで接していけば難しい話ではありません。ミレニアル世代の働き方への動機付けとして「家族のような関係性」が挙げられていましたが、その中身は「チームワーク・協働といった水平的な関係や、階層が多くないフラットな組織構造であるかどうか」となっていますので、まさにここでいう「開かれた価値観」を指しています。
最後に、ミレニアル世代の若い世代の育成のポイントを押さえておきましょう。
(1) まずは相手の価値観を知る
有名な『7つの習慣』にもあるように、「理解してから、理解される」というのは普遍的な鉄則です。「分かってもらおう」と思う一方で、「相手のことを分かろう」と思えているでしょうか。若者と一口に言っても育ってきた環境も背景も様々です。まずは相手がどんな価値観を持ち、どういった経緯で自社に入ってくれたのか、自然体で聞いてみましょう。そしてもし自分と考え方や価値観が違ったとしても、一旦相手を受け入れることができれば、相手も自分を理解してくれるはずです。
(2) その仕事の意味や面白みを伝え、自分の背中を見せる
社会が豊かになり、生まれたときから様々な選択肢に囲まれてきたミレニアル世代にとって、会社は一つの選択肢に過ぎません。だからこそ、「何を」やるかよりも「なぜ」やるのかを重視しますし、「自分がその仕事をやる意味は何か」にこそ価値を見出すでしょう。そして、その仕事が「なぜ」面白いのか、もっと面白くするためにはどうしたらよいのか、そのポイントを知っているのは、上司であり先輩たち自身です。彼ら彼女らを夢中にさせるには、そのポイントをしっかり伝えていきましょう。何より自分たちが楽しんで「いい仕事」「格好いい仕事」をすることが、若い世代の目を輝かせる一番のスパイスになるでしょう。
(3) 成長予感を持たせる
若者が会社で働く理由の2位は「学習、自己成長」でした。ここのポイントは、「成長実感」ではなく「成長予感」が大事だということです。「ここで働いていれば、もっと自分は成長できる」と思えると、モチベーション高く働けますが、「ここではもう学ぶべきことがない」と思ってしまえば、働く意欲が下がり、別の道を探してしまうでしょう。そのためには組織が常に前向きな挑戦を続け、先輩たちも切磋琢磨して成長し続けていること、この「場のエネルギー」が必要です。ポジティブで、どんどん高い目標に挑戦していくような組織文化そのものが、若者の育成には必要なのです。
理解できないものは不安や焦りを生み出しますが、理解してしまえば何ということはありません。ミレニアル世代の若い人たちにも自分の会社を「より楽しい空間」として選んでもらい、そこで一緒に良い仕事ができることが大切です。このように考えれば、もっとリラックスして彼ら・彼女らの育成にも取り組めるのではないでしょうか?