モチベーションマネジメントの成功法
1.モチベーションマネジメントとは
モチベーションマネジメントの定義
モチベーションマネジメントとは従業員が仕事をするための意欲や、やる気をうまくマネジメントする活動を指し、従業員のパフォーマンスを高めることを目的に行います。
モチベーションマネジメントがなぜ必要なのか
米国の調査会社が2017年に実施した調査によれば日本は熱意あふれる社員の割合は6%と、調査対象34カ国中34位の最下位という調査結果となりました。
加えて、働き方改革に伴う残業規制により、限られた時間のなかでより生産性高い成果が求められています。
モチベーションの高さとパフォーマンスに関して、様々な要因が関連するため厳密な評価は難しいのが現状です。そしてモチベーションは一定期間、一定状態であるかどうかを評価すること自体が難しいと言えます。
ただ、モチベーションが低い状態と高い状態を比較した場合、人としても企業としてもモチベーションを高い状態を保ちたいと考えることが多いのではないのでしょうか。
2.モチベーションマネジメントの対象
モチベーションマネジメントの対象は全従業員になりますが、大きく管理職と一般社員にわけられます。
管理職
管理職の役割は組織を通じて成果を最大化させることになりますので、管理監督下にある社員のモチベーションマネジメントを行うことが求められます。これまで一般社員として自らの能力を駆使して成果を出してきたことでしょう。
その際に起こりがちなのは自分がやったほうが早いという意識です。もちろん管理職の方が経験や能力が高ためそのとおりだと思いますが、管理職の役割を果たすためには、部下に仕事を任せなければなりません。
そのためには部下に仕事を任せる勇気と仕事がうまく進むように支援する力が求められます。
部下の仕事がうまくいくことで、部下自身が達成感や自己肯定感、成長実感など多くの良い心理的な効果を得られることができるうえ、上司である管理職のモチベーションも高まります。
一般社員
一般社員については、自分自身が成果を出すことが組織に対してどのような影響を与えているのかを正しく理解することが大切になりますので、後ほど説明します。
3.モチベーションの種類
モチベーションは、人間の内側から起こる内発的動機と、外部の影響を受けて動機づけされる外発的動機づけの二種類があります。
1.内発的動機づけ
内発的動機とは自分自身の興味・関心や意欲に起因するものです。例えば、今の仕事が好きであり、高い専門性を身につけるために努力をするということです。
内発的動機は自ら湧き上がらせることができ、長期的に持続させることが可能です。
2.外発的動機づけ
外発的動機とは評価や賞罰、報酬、待遇などの外的要因を指します。例えば、この仕事で成果を出せば高収入を得られる、等です。この仕事をやらないと上司に叱責されるというネガティブなものも外発的動機になります。
外発的動機は短期的な効果は大きいものの、持続性が低いことが特徴です。くわえて、給料や休みは多いほうが良いと考える社員が多いように、「どんどん増えてもさらに欲しい」と思うようになり、上限がないということも押さえておきましょう。
内発的動機と外発的動機に優劣はなく、どちらも重要になりますが、持続性や限られた原資をどのように配分するかしっかりと検討することが必要です。
4.主なモチベーション理論
人がどのような動機で行動を起こすか説明してきましたが、ここからは、その動機についてどのような理論背景があるか代表的な理論について解説します。
1)期待理論
イェール大学のヴィクター・H・ヴルーム氏が提唱した概念です。「期待」「誘意性」「道具性」3つの要素の掛けあわせにより成り立っているという考え方です。
期待
期待とは、行動した時にどのような良い結果が得られるか、ということで確率で表すことが可能です。この商談で受注が取れる確率は40%や70%であるというものです。ただし、主観的な確率であることが多く、この達成確率の期待は高ければ良いというものでもありません。達成確率が高いということは自分にとって安易な仕事を与えられていると感じることがあります。反対に難しすぎる仕事では達成に対する期待が持てず、はじめる前からやる気を起こせない可能性があります。できるかできないかわからない50%の状態がモチベーションを高めるために最も効果的とされています。
誘意性
誘意性とは結果がもつ魅力の度合いです。この魅力はプラスとマイナス両方の側面があります。
例えば、A社がとても魅力的でありそこで働きたいというプラス面と、ブラック企業と悪評高いので働きたくないというマイナス面のイメージです。
また、結果それ自体がもつ誘意性と、その結果がもたらす2次的な結果がもつ誘意性にも分けられます。
例えば、A社に入ることで、好きなIT系の仕事ができる、将来海外で働ける、あるいは高い給与がもらえる等々、いろいろな結果につながることが予想されます。A社への入社という結果それ自体と、入社がもたらす様々な2次的結果が発生します。2次的結果は複数ありそれぞれに魅力の強さも異なると考えられます。
道具性
道具性とは、結果それ自体が2次的結果に繋がる手段あるいは道具としてどれぐらい役立つか、という見込みです。例えばA社に入ることは高い給与を得ることに役立つけれども、海外で働くという夢を叶えるには役立ち度は低いといった具合です。
2)公平理論
公平理論とは、心理学者のジーン・ステイシー・アダムス氏が提唱した考えで、人は「自分の仕事への取り組みと対価としての報酬」と「他人の仕事への取り組みと対価としての報酬」を比較し、その内容に不公平を感じる場合、公平性を感じるように行動をとるという理論です。
報酬システムについて「従業員は自分の報酬に対する満足・不満足を他人の報酬との比較の中で認識する」という前提条件があることが重要です。例えば、仕事をサボっている人と一生懸命行っている人が同じ成果を出していないという前提のうえで、評価が同じであれば、不満を抱くことは自然ではないでしょうか。
3)マズローの5段階欲求説
心理学者アブラハム・マズロー氏が提唱した理論であり、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」と仮定し、人間の欲求を5段階の理論にしました。
ピラミッドの低い階層の欲求が満たされることにより、上位の階層の欲求を充足させようと行動していきます。
4)ピグマリオン効果
ピグマリオン効果とは他者から期待を受けることで、その期待に沿った成果を出そうと行動する心理的な効果に関する理論です。教育心理学者のローゼンタール氏が提唱した理論です。
言い換えれば、相手に対して期待しない、見込みがないと思っていると、本当にその通り悪い結果になってしまうと言われています。
5.モチベーションが低下する原因
これまでモチベーションを高めるための理論について解説してきましたが、ここからはどのような原因が理由でモチベーションが下がるのか説明します。
1.評価や待遇への不満
公平理論のなかでも解説しましたが、かけた労力に見合わない評価や待遇は大きな不満の原因になります。そのため、どのような成果が得られれば、どのような報酬が得られるのか明確にすることが重要です。
2.人間関係への不満
人間関係の不調和は、人に対して大きなストレスを与えます。仕事の出来栄えや成果の出し方、意見の食い違いなど人間関係に影響を与える要素は多岐にわたります。大切なことは、人間関係に関する不満を、いかに言葉に出してもらうか、何が不調和の原因になっているのかを明確にすることが重要です。ただし、人間関係の不調和を言葉に出してもらうことと、解決できることは一致しないことは押さえておくことが大切です。
3.仕事内容への不満
自分が興味関心のある仕事に就くことはとても困難です。そのときに不満が上がることは当然のことといえます。ただし、その仕事内容が会社にとってどのような意義があるのかをできるだけ丁寧に説明することが大切です。会社組織として必要な機能としてその仕事が存在しているのであれば、その仕事はとても大切な役割を果たしていると言えます。ピグマリオン効果で解説したように、期待は相手に伝わるものであると肝に銘じて、誠意をもって伝え続けることが大切です。
4.将来に対する不安感
将来に対する不安感の対象はこの仕事を続けていてどのような経験や能力が身につくのだろうかという内的なものと、この会社で勤め続けて報酬がより良い待遇になるのか、といった外的なものもあります。従業員に対して長期的な展望を指し示すことが大切です。
本人がやりたいことは何かを話し合い、今の仕事とどのような重なりがあるのか、丁寧に話し合うことが大切です。5.身体的疲労の蓄積
身体的疲労はモチベーションに大きな影響を与えます。残業時間や健康診断の結果をモニタリングすることはもちろんですが、日頃の顔色の変化など些細な変化に気がつけるよう日常の声がけが大切です。
6.モチベーションマネジメントのメリット
1.生産性が向上する
モチベーションと生産性は大きく影響します。同じ仕事をしても、楽しみながら行っている仕事と嫌々やらされている仕事では生産性に大きく影響します。
2.主体的な能力開発につながる
自らが興味関心をもって取り組んで仕事に取り組むことができれば、自分自身の専門性をどうすれば高められるのか、自発的に考えることができ、主体的な能力開発につながります。
3.離職のリスクが抑えられる
モチベーションが下がる原因で解説した5つの原因はどれも離職に直結する原因として上位に挙げられるものです。モチベーションを高める取り組みが離職を抑制することに大きく期待できます。
7.モチベーションマネジメントを成功させるためのコツ
ここまではモチベーションを上下させるための理論的な背景や、個別に従業員とどのように関わることが効果的なのか考えてきましたが、組織単位でどのように取り組むべきか解説します。
1.人事評価制度の見直し、連動性
公平理論でもあるように、従業員はかけた労力と報酬のバランスが取れているかを非常に敏感に感じとります。そのため、どのような成果を出せば、どのように評価されるのか透明性を確保することが重要です。
そして、人事評価と日常の育成が連動することが重要です。例えば、業績評価と能力や行動評価を分けていたとします。業績評価が仮に100%のウエイトを占めていたとすると、たまたま顧客の特需により予算を達成した営業担当者は何の努力もしないまま目標を達成してことになります。
このようなことがないために、会社の経営目標と照らし合わせて、評価制度の項目とその比率を考えて連動させることが重要です。
2.従業員の声を真摯に聞く
モチベーションがどのような状態にあるか、従業員個々に状態が異なります。そのため、何に不満を感じているのか、従業員個々に確認をすることが求められます。
職場における働き方やテレワークの導入、新しい休暇制度など、働きやすい環境について改善要求がでたとします。改善できなかったとしても誠意をもって検討して、検討の結果どうだったかを伝えることが極めて重要です。なぜなら、従業員からせっかく意見を出しても、検討したのかどうか、結果がどのようになったのかわからなければ、従業員は再度意見を出そうとは思わないからです。
3.皆様の会社で働く目的を明確にし、目的を実現するための指針を示す
従業個々の単位では働く目的をもっていると思いますが、皆様の会社で働く目的を明確にすることが大切です。そのためには、ミッション・ビジョン・バリューを見直すこともあるかもしれませんし、企業ブランディングを見直して、会社として社会にどのような価値提供をするのか再定義すること有効です。
4.定期的にモチベーションを確認する
モチベーションは1日の中でも上下しがちなものですが、時間軸を広げて長期的にみると緩やかな線形になっています。例えば、大変なプロジェクトに関わっていた期間、子育てとの両立で時間のやりくりが困難だった期間などモチベーションが上下する要素は様々です。
従業員のモチベーションを定期的に確認することにより、従業員個々の状態が見られるようになります。
定期的に確認ができていると、前回はモチベーションが高かったのに、急に下がっている、何が起きているのか面談の機会を作ろう、というように何か起きる前に早く対応することができます。
また一例ですが、新たな人事制度を導入し社内発表を終えた後のモチベーションの変化を見ると、その制度がどのように従業員に受け止められているのかについて情報を得ることができます。
5.従業員同士が認め合い、ほめ合う風土を作る
モチベーションと承認は密接に関係します。マズローの5段階欲求説でも解説しましたが、人は承認されることでモチベーションが高まります。
いつも仕事で関係している従業員同士がお互いのことをほめ合うことができれば、承認欲求を満たしあえるようになります。
些細なことでも良いので、承認するときは具体的にほめることが重要です。漠然とほめたとして受け取る相手は何が良かったのか理解できず、次に同じ行動ができません。
また、大きな成果だけをほめようとすると、「こんなことでほめてしまって良いのだろうか」という相対的な評価が働いてしまい、ほめる側の行動が抑制されてしまいます。
8.まとめ
モチベーションマネジメントが会社や組織を成長させるとても重要な要素であることを説明してきました。モチベーションが高い社員が皆様の組織にどの程度存在しているのか、組織や役職による偏りはないかを点検してみてはいかがでしょうか。