コラム

テレワークにおけるマネジメントのポイント ~with コロナ時代の働き方

1.はじめに ~テレワークの実態

皆さんの会社ではテレワークを進めていますか?

今回のコロナ禍に伴って初めてテレワークを導入したという方も多いと思います。パーソル総合研究所の調査によれば、緊急事態宣言(2020年4月7日)後、4月前半での正社員のテレワーク実施率は全国平均で27.9%となっており、これは3月半ばの時点における13.2%の2倍以上の数字となりました。その後、緊急事態宣言解除(5月25日)を受けた5月末の段階ではテレワーク実施率は25.7%と微減になっていますが、なお平均的に4人に1人、東京に限れば2人に1人が(49.1%)がテレワークを行っていることになります。

そのような中、社員側の不安としては、

  • 非対面のやりとりは、相手の気持ちが分かりにくく不安
  • 上司や同僚から仕事をさぼっていると思われていないか不安
  • 出社する同僚の負担が増えていないか不安
  • 相談しにくいと思われていないか不安

などが上位に上がっています。管理者も一般社員も皆、ニューノーマルとも呼ばれる新しい環境への適応に難しさを感じているのではないでしょうか。今回は、このコロナ禍で広まったテレワークにおけるマネジメントについて押さえるべきポイントを考えます。今までのように「出社して同じ場所で同じ時間を過ごせば評価された時代(評価できた時代)」は多くの会社で相対化されていくでしょう。オンライン・ベースでのマネジメントスキルを是非取り入れてきましょう。

2.IBM、ヤフーの実験 ~テレワークは本当に生産性を上げるのか?

まず、テレワークを「良いもの」と考えている企業ばかりではありません。

米国ヤフーは2013年、マリッサ・メイヤーCEO(当時)が在宅勤務を原則禁止として話題になりました。柔軟性のある働き方で知られたIBMも2017年に数千人のテレワーカーたちをオフィスに戻す決定をしています。

マリッサ・メイヤーCEOからの社員宛メールでは、以下のような内容が書かれていたといいます。

最上の職場になるためには、コミュニケーションとコラボレーションが大事。ゆえに、私たちはサイド・バイ・サイドで(机をならべて)働く必要がある。

社内にいることが肝要なのだ。

ベストの決定や見解は、社内の廊下や社員食堂での、新たな人たちとの出会い、いや即席チームミーティングから生まれることもある。在宅勤務だと、スピードと仕事の質がしばしば損なわれる。私たちは、ひとつのヤフーにならねばならぬ。そして、それは物理的に一緒にいることから始まるのだ。

この6月から、在宅勤務の全ての従業員に、ヤフー社内で働くことを求める。もし、あなたがその対象であれば、既に人事から連絡が行っている。その対象外の人たちも、たまに自宅のケーブルテレビ修理を待たねばならぬときは、コラボレーションの精神で最善の自己判断で臨んでほしい。

様々なテレワーク用のツールを提供しているグーグルであっても、実は社員は基本的にオフィス出勤が求められています。なぜグーグルはテレワークを否定するのでしょうか。それは、「社員をグーグル以外の環境に置かないことで愛社精神を育み、社のクリエイティビティや情報を守ること」が理由だといわれています。

もちろんアメリカはテレワーク先進国であり、多くの企業がテレワークを取り入れています。一方で、IT系をはじめとする先進的な企業でテレワークを否定する動きがここ数年で起こっていることは注目に値するでしょう。やはりオフライン(リアル)・コミュニケーションによる創発や信頼関係の情勢は重要なのです。

私たちはコロナによって急激にテレワークを導入しており、米国社会が今まで経験してきたテレワークのメリットとデメリットを初めて大規模に経験することになるでしょう。まずは盲目的に「良いこと」と信じるのではなく、メリット・デメリットを客観的に考え、各企業がどのような働き方を採用していくか、戦略的に考えていくべきということは押さえておきたいところです。

3.テレワークによって起こる問題と対応策

さて、ここではマネジメントの立場から、テレワークではどのような点に気を付けていく必要があるのか、確認していきましょう。

3-1.いかにチームの生産性を維持するのか?


オンラインにせよオフラインにせよ、「指示しなくても仕事ができる人」についてはそれほど大きな問題はありません。今まで通りの指示であっても、こちらの意図を汲んでしっかり対応してくれることでしょう。コロナ禍で問題になったのは、実は会社に来てもあまり主体的に働いていなかった人や指示待ちの人、いわゆる「働かないおじさん問題」に代表される人たちへの対応でした(実際は男性に限るわけでも、おじさんに限るわけでもなく、若手であってもありえます)。

主に「会社に来ること」、「一定時間を会社で過ごすこと」によって評価され、報酬を得ていた人たちが「会社に来なくてよくなった」場合、何をしたらよいのか、何をさせたらよいのか、これはお互いに大問題です。

そういう人たちへのテレワーク・マネジメントの第一の条件は、「期待する仕事内容とプロセスを明確に提示すること」です。明確な成果の提示と言ってもよいでしょう。必要であればプロセスについても指導し、いつまでにどんな成果を求められるのか、それはチーム全体の目標においてどのような位置づけにあるのか、個別に説明できなければいけません。

  • どんな内容の仕事をしてほしいのか
  • どのように進めてほしいのか
  • いつ、どのような形で報告をしてほしいのか
  • 全体の中でそれはどういう役割を担っているのか
  • チームの中で果たしてほしい役割への期待

など、丁寧に伝えて作業内容を明確にしましょう。レベルに応じて改善提案などを求めても構いません。「○○をやっておいて」という成果の提示だけでは認識内容にギャップが発生することが多く、スムーズなやり取りができずにお互いストレスになりがちです。一方、「○○までにこの範囲で報告してください。フォーマットはこんな感じです」と丁寧に内容を伝えることで、少なくともそれを実践すれば、こちらから褒めること(評価すること)が可能になります。できることの見える化を行えば評価もしやすくなるのです。

この「仕事内容の明確な提示」をもう少し一般的に言えば、いわゆる「ジョブ型」における「ジョブ・ディスクリプション(job description:職務記述書)」と呼ばれるものに近くなります。あなたにはこのポジションでこういう成果を期待してこういうことをしてほしいということを記述する必要があるのですが、まだまだ日本では浸透していません。組織の大目標に対してチームがどのように貢献していけるのか、チームがより大きな成果を出していくために各メンバーにどのような成果を期待するのか、ということで、より上位目標との繋がりや責任範囲を意識するものとなるでしょう。

注意したいのは、これは「ジョブ型」がよいという話ではなく、「テレワークに移行するということはジョブ・ディスクリプションを伴う」ことだということです。ジョブ・ディスクリプションを定義できなければマネジメントもできないし部下の評価もできません。チームでなんとなくお互いをカバーし合うということはテレワークではやりづらいのです。

テレワークを導入した場合の部下の評価や指導で悩まれている方は、まずは部下に期待する業務内容やプロセスを個人ごとに書いてみることを試してみましょう。こうすることで部下とのミスコミュニケーションの防止にもなりますし、指示が明確になり部下のやる気も上がりやすくなります。最初は完璧なものを目指さず、部下とも相談しながら徐々に適切なものにしていけばよいでしょう。

なお、こうしたジョブ・ディスクリプションが定着してくると、より評価や待遇条件などの違いに反映されてくるはずです。やっている仕事内容が明らかに違うのに評価や待遇が同じということは日本でも難しくなっていくでしょう。テレワークはそれを加速させていく可能性があります。

3-2.オンラインでいかに信頼関係を作るのか?

テレワークにおける悩みの多くは相手とのコミュニケーションが上手くとれないことが要因で起こるものでした。すれ違いがおこっていないか、きちんと意図が伝わっているか、誰であれ不安に思うところでしょう。

オンラインで信頼関係を培うポイントは結論から言えば「十分な情報開示」に尽きるといえます。企業においても上層部でどのような議論がなされ、どういう目的で施策が行われるのか、社員にはどういう動きを期待しているのか共有された方が、施策効果も高まります。これは個人間の信頼関係でも同様で、例えばフェイスブックで友達申請をもらったとして、相手がプロフィールも何も書いておらず、どんな人か分からなければ申請を承認することはあまりないでしょう。一方で、プロフィールには同じ出身高校であることが書いてあり、共通の知り合いもたくさんいる、しかもどういう経緯で友人申請をしてきたかについてもメッセージを送ってきてくれているというのであれば、申請を承認する可能性はグッと高くなります(たとえその人と面識がなくても、です)。

要するに、オンラインで信頼関係を培うためには自分から十分な情報提供をしていく必要があるということです。「仕事内容の明確な提示」が信頼関係の構築にも役立つのはそのためです。相手に対する期待値について認識ギャップをなくすことでスムーズなコミュニケーションを担保しているのです。

では共有すべき情報にはどのようなものがあるでしょうか。ここでは3点、挙げておきます。

(1)会社やチーム全体の情報

まずは会社の戦略や方向性、業績の進捗度合い、チーム全体の目標とチーム員としての役割期待について、今まで以上に丁寧に伝え、意見を聞いていく必要があります。人事上の評価基準なども同様です。特に会社全体の業績などは一般社員に共有されることが少ないことも多く、それによって社員が全体感をもって仕事に取り組めなくなることもあります。情報を伝えるのは相手を信頼している証拠ですし、まず会社が社員を信頼しなければ、社員から信頼を勝ち取ることもできません。言わずともわかってくれるだろう、このくらいは分かってくれないと困る、あるいは「この前メールで伝えたよね」という一方的な発信主義は誤解の元。オンラインなら尚更、相手の理解度を確認しながら丁寧に進めていく必要があります。

(2)マネジメント自身のキャリア、スキル、価値観

また、自身自身のキャリアについて、「こんなときにこんなことがあって」という話や、「自分は過去のこういうプロジェクトを経験してきたので、この分野については強い。もし相談があれば言ってほしい。逆に、この分野は弱いから、もし相談があれば〇〇さんを紹介できる」といった具合に、自分自身をより公開していくことが信頼度合いを強めてくれます。また自分自身が大切にしている価値観などもあらかじめ伝えておけば、いらぬコミュニケーション・ギャップは少なくなるでしょう。現代社会では個人情報の重要性が言われますが、逆に個人情報を出していかなければ自分自身の価値を訴求できない時代でもあるのです。

(3)部下の置かれているプライベートな環境

テレワークでは、家庭の問題が仕事に影響する度合いが高くなります。家にお子さんがいるかもしれませんし、ご両親を介護しているかもしれません。テレワークの方が楽だという人もいますが、若手の中には家に自分一人しかいないために、テレワークでは1日誰とも会話することなく終わってしまうというケースもあるのです。そういった部下が置かれている状況をしっかりと把握し、今どういう面で困っているのか、苦労している点はないか、といった情報を定期的に確認しておくことが重要です。これはテレワークでなくとも部下の把握において重要な情報ですが、毎日挨拶をする中で顔色などを確認することがテレワークではできません。対面のフォローができない分、より丁寧に押さえる努力をした方がよいでしょう。

4.おわりに ~より意識的なコミュニケーションと想像力を

テレワークでは対面による非言語のコミュニケーションがなくなってしまうため、より「伝える努力」と「相手のことを想像する努力」が必要になります。テレワークだからどこでも働けて楽だね、というのは一面に過ぎず、テレワークで本気で生産性を高めていこうと思えば、それだけの努力をしなくてはいけないでしょう。

まずは相手のことをもっとよく知ろうとする努力と想像力、そして自分のことをもっと伝えていこうという努力と積極性が大切です。うまく使いこなせれば世界中で社員を雇用できるチャンスを生み出し、強い競争力を生み出す可能性があるのもテレワーク。是非皆さんの会社でも独自の工夫をしながら取り組んでいってください。

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