職域拡大とは?企業の事例を交えて解説
2016年から政府によって始められた「働き方改革」。「働き方改革実現会議」においては、当初多くの企業が目指していた「労働時間の短縮」だけではなく、「女性の雇用環境の改善」や「場所に依存しない働き方」など、さまざまな課題へと視点が広がっています。
なかでも、「女性の雇用」や「多様な人材の雇用拡大」「テレワーク」については、人材不足の解決策として多くの企業が注目しています。しかし、社会の体質や企業の制度に縛られ、導入に至らないケースが多いことも事実です。
既存のルールにとらわれずに働き方改革を進めるには、どのような方法があるのでしょうか。ここでは、人材育成を目指した「職域拡大」から働き方改革へとつなげている事例を紹介します。
さまざまな働き方改革へとつながる「職域拡大」とは
「職域拡大」とは、職業や職務の範囲、あるいは受け持つ仕事の領域を広げることを意味します。例えば、従来男性が中心だった仕事に女性が就く、反対に女性中心の業務とされていた仕事を男性が行う、あるいは若い社員が中心となって行っている業務にシニア世代が参加するといったことです。
また、一歩踏み込み、性別や年齢による業務制限の撤廃、外国人の採用、障がい者の雇用と業種の拡大にチャレンジしている企業も見られます。
こうした職域拡大に取り組むことにより、業務に年齢制限があったり、性別によって役割分担や業務内容が決まっていたりした部署でも人材の確保がしやすくなります。その結果、残業時間や休日出勤が少なくなれば、ワーク・ライフ・バランスの推進にもつながります。
さらに、業務の内容によっては、ひとりだけでなく部署の人員で共有することで、時短勤務や休暇の取得がしやすくなります。時短勤務が可能になれば、子育てや介護をしながらでも働きやすい環境となり、人材の定着が期待できます。
職域拡大を始めるうえでの留意点
では、実際に職域拡大を始める際には、どのような点に配慮すればよいのでしょうか。
例えば、シニア層。社会人経験が長いという共通点はありますが、職歴や熟練度、体力などはそれぞれ異なります。そうした人材を活用するうえでは、単に年齢や経験年数などでポジションを決めるのではなく、個々のスキル・健康状態に合った働き方をしてもらうことが大切です。画一的な勤務時間や職務内容では、シニア層の負担になったり、思うような成果を挙げてもらえなかったりすることもあるでしょう。
女性の活用においては、柔軟な勤務制度を設けることはもちろんのこと、より責任の大きなポジションへの起用を考慮していくこともポイントとなるでしょう。これまで管理職にはほぼ男性しかいなかったという企業で、女性の登用がより多く実施されるようになれば、候補者の人数が増えて最適な人材を選びやすくなります。
職域拡大から働き方改革を目指す企業の事例
中堅製造業が行うシニア世代の職域拡大
ある中堅製造業では、シニア世代の職域拡大を進めるために、柔軟な働き方に対応するコースを設定しています。社員を「限定勤務コース」「熟練指導コース」「一般スキルコース」「専門職コース」に分け、本人のスキルや体力を考慮した職務の再設計を行っているのです。そうすることで社員の役割や処遇が明確になるとともに、効果的な人事配置が可能になり、シニア世代が持つ経験を部署に活かすことができます。さらに、適材適所に配置することにより、モチベーションを持って勤めてもらうことができます。
障がい者人材の職域拡大
自動車部品等の精密部品切削加工を事業とする有限会社真京精機では、社員一人ひとりに寄り添い、障がいのある社員とない社員の交流を活発化し、障がい者の業務や能力の理解を進めています。さらに、マンツーマンの技術指導、障がい者にも使いやすい治具の工夫、能力を考慮した適材適所への配置の徹底により、障がいのある社員の潜在能力を引き出しています。また、育成の工夫や道具の開発により、不良品の発生率が大幅に減少し、顧客の信頼獲得につながりました。さらに、業績の向上が社員全体のモチベーションアップにつながり、それまでは不可能だとあきらめていた試作品の製作にも前向きに挑戦する姿勢、発想力が生まれています。作業効率を上げる工夫も積極的に行われ、週労働時間は60時間から44.5時間に削減されたそうです。
女性社員の役割の高度化、タブレット端末の利用
航空運送事業を展開する全日本空輸株式会社では、客室関連部門を統括する「客室センター長」や日々の運航を統括する「オペレーションディレクター」など、かつては男性が占めていた管理職層に女性を登用しています。特に、客室乗務員経験者のように現場の目線を持つ人材の起用は、一定の成果を挙げています。さらに、仮想デスクトップとiPhoneを利用した在宅勤務の取り組みが行われ、それがテレワークへとつながっています。
働き方改革を推進するうえで必要な意識は、「何をするか」ではなく「何のために行うか」です。適材適所や人材育成を考えた職域拡大は、生産性の向上や技術継承の問題を解決し、さまざまな働き方改革へとつながっていきます。既存のルールにとらわれず、個人の能力や強みを生かすことが大切です。